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熱海殺人事件のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

熱海殺人事件(1986年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

 つかこうへいの舞台の映画化。以前「『熱海殺人事件』VS『売春捜査官』」という異版だが上演をみたことがあったが、あの畳み掛ける台詞の掛け合いのスピード感は演劇でこそできたものだと感じた。今作は、その失速が否めないのと、演劇から脱することがなかなかできていないような作品だった。まだ未見だが、同原作者だが評価の高い「蒲田行進曲」が何を持って映画として成功したかも気になる。

 原作の露悪的だがついつい笑ってしまうやりとり、セットを横断する縦横無尽さ、それらを楽しむことができたのは原作の要素としてであった。映画の面白さとしては、そのセット横断で、回想と現実、この場合歓楽街と刑務所をワンカットで収めるという、どう撮ったのかトリック不明のショットが見応えありだった。しかし、それも一回こっきりでしかない。役者陣も素晴らしいが、それは演劇的な面白さとしてだった。またラスト、ヘリコプターでの追走劇はルパン三世みたいで面白く映像じゃないと出来ないことだったが、演劇にできないその部分の魅力が高いかと言われると微妙…。

 仲代達矢。そのやや老いた表情には晩年のキートンみたいな雰囲気を見出せなくもない。机に座り、手をちょこんと机に置く姿には威厳がなくて、その眉間のシワといい当惑した表情といい、キートンぽい。キートンの無表情に宿るダンディズムと、佇まいから醸し出されるそれになりきれなさみたいな感じがまた特に似ている。また大滝秀治の自然体すぎる演技が凄い。彼は逆に自然体すぎて、書き割りセットからは浮いてしまうような気もする。そんな自然体に合わせてか、彼は吉岡の夢を覚まさせる現実として、また実際の熱海や街中をうろつくという現実世界に近い場所に頻出していた。

 キーとなる事件再現シーン。こここそ実際に熱海で撮るべきではと思った。劇で見ていた際も、あたりが真っ赤に染められ、脳内では事件当時そのものの場だと思いながら見ていたし。それを、狭いあの二階堂のオフィスで収めてしまわなくともいいのではと思った。今敏みたいに、現実と妄想の交点が見たかった。
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