回想シーンでご飯3杯いける

チャムキラの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

チャムキラ(2024年製作の映画)
4.0
Netflixでもすっかり配信数が減っているインド映画だが(翻訳家の人手不足が原因か)、これは久々の力作。インド・パキスタン分離独立で取り沙汰されるパンジャブ地方で1980年代に人気を博した男性歌手チャムキラの人生を描いている。

彼の音楽で特徴的なのは下ネタ満載の歌詞。相方である女性との掛け合いが印象的で、この題材なのでもちろんダンスシーンもあるし、歌に合わせて歌詞のテロップがリズミカルに挿入される演出も楽しい。

日本でも昭和の時代には、月亭可朝の「嘆きのボイン」を筆頭にお色気ソングが人気を博した時期があったし、デビュー当初のサザンオールスターズだって、その傾向が顕著だった。たかが下ネタなのだが、それは市民文化の多様性や、表現の自由の象徴という側面も有していたと思う。本作でも、市民は表向きにはチャムキラの歌を馬鹿にしているが、実は密かに隠れて楽しんでいる。特に女性や子供に好まれている事が明かされる下りは、大衆文化としての音楽の本質を表現する、いかにもインド映画らしいメッセージに溢れている。

面白おかしい前半に対して、パンジャブの政治的混乱やシク教徒への弾圧の影響で、チャムキラの音楽が禁じられるようになる後半の展開は、先に書いた通り、音楽文化の存在意義を問う社会派作品としてのメッセージが色濃く表れる。

僕達日本人は、音楽が政治や宗教の力によって規制されるなんてあり得ないと思っているけど、見方を変えれば、そもそも日本にはチャムキラのように権力者が嫌うほどの影響力を持つ音楽家がいないとも言える。パンジャブを羨ましいと思うわけでは無いが、無難な音楽が溢れる日本に物足りなさを感じる事があるのも確かである。