日下勉

ラジオ下神白―あのとき あのまちの音楽から いまここへの日下勉のレビュー・感想・評価

4.5
福島第一原子力発電所の事故により避難を余儀なくされた浪江、双葉、大熊、富岡町の人たちの暮らす、いわき市下神白団地。この下神白団地に住む人たちに故郷の話と思いでの音楽を共にラジオ番組風に作られたCDを配布するプロジェクト「ラジオ下神白」。その交流を映したドキュメンタリー。ナレーションは全く無く、まるでカメラなど無いかのように、観ている私たちもここに共にいて耳を傾けているような感じ。この距離感が素晴らしい。
そこで耳にする言葉で、心に刺さるのは避難して部屋にいると何ヵ月でも誰とも話さないという孤絶。あの事故が奪ったのは、つまりはこういうことなのだとわかる。お金や住居を用意したとしても、いちばん大切な人とのつながりは容易くは取り戻せない現実。それをラジオ下神白は声と歌で再度繋いでいく。そして歌はその人の記憶なのだ。記憶を取り戻し、新たに紡ぐことで生きていくことを感じる。また住民とラジオ下神白メンバーの関わりの仕方も良い。
支援、支援される間柄出なく、共にコミュニティを作り上げていくような関係。
ある人物のところに贈り物が届きそのお礼の電話をしている時、そこにいるラジオ下神白のメンバーを「お友達といる」と楽しげにいう、そんな言葉が距離感を表していると感じる。
素晴らしいドキュメンタリー。
日下勉

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