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RHEINGOLD ラインゴールドのodyssのレビュー・感想・評価

RHEINGOLD ラインゴールド(2022年製作の映画)
3.3
【移民はマフィアを作る】

このタイトル、ヴァーグナーの長大な楽劇『ニーベルングの指環』の前夜劇である「ラインの黄金」のこと。
映画自体は、イラン人(クルド人)移民がヨーロッパで暮らす物語なのに、なぜヴァーグナーなのだ?と思うでしょう。
それは、主人公の父が音楽家で、ヨーロッパ音楽とペルシャ音楽の融合をめざしているという人なのですが、一家がイランからヨーロッパに移り、やがてドイツで暮らすようになって最初に居を定めたのが西ドイツ時代は首都だったボンで、首都だからオペラハウスもあるわけで、主人公が父に連れられてオペラハウスを訪ねたときに(練習で)演奏していたのが「ラインの黄金」だったというわけです。

なので、ヴァーグナーの楽劇がこの映画の筋書き自体に直接関係しているわけではありません。
ただし最後のオチがこのタイトルと結びつくようにできています。

ファティ・アキン監督の映画というと『女は二度決断する』が思い起こされます。
あれはクルド人がドイツで差別されるという話でした。
今回もクルド人が主人公でありヨーロッパで生活する話なので、同じような趣向なのかと思いきや、かなり違っていました。
主人公の父は途中で家族を捨ててしまうので、主人公は母と妹をかかえ、何とかお金を稼がなければなりません。
そこで、色々とヤバイ仕事に手を染めて・・・という展開です。

クルド人がヨーロッパで生きるためにはヤバイ生き方をしなければならない。
主人公は途中でアムステルダムに行って、そこでクルド人たちを糾合しているボスの世話になるのですが、ここで私が想起したのはアメリカのマフィアを描いた映画『ゴッドファーザー』でした。
イタリア系移民はアメリカで差別されていたので、仲間同士で集まってヤバイ仕事にも手を染めつつ、お互いを守っていたわけですね。あれと同じです。

つまり、この映画は言わば『ヨーロッパ版ゴッドファーザー』なのです。ただしゴッドファーザーその人が主役ではなくて、主人公の青年がお世話になるのがゴッドファーザーなのですが。

日本でも移民の受け入れについて色々議論がありますが、移民を増やせばおそらくマフィアのような団体ができてくるでしょう。その辺、ちゃんと考えておいたほうがいいと思うな。

もう一つ、この映画の主人公の生き方を見て想起されたのが、ピカレスクロマンです。
日本では悪漢小説なんて訳されますが、悪者を描くというよりは、主人公が社会の中で色々な体験をしながら、時として犯罪行為にも関係しつつ、変化の多い人生行路を歩んでいく、というジャンルです。

この映画、まさにそれなんですよ。
アキン監督の『女は二度決断する』が移民を受け入れている社会に対する批判だったとすると、こちらはむしろ移民の側のヤバさをそれとして描いている点で、異なっているのです。

どちらが正しい、というわけでもない。
どちらも正しいのです。
移民は一方では差別を受けますが、だからといって「移民は本当は善人ばかり」なわけでもないのです。
この映画はそういう事実を教えてくれているのですね。
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