悪魔の毒々クチビル

Tarung Sarung(原題)の悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

Tarung Sarung(原題)(2020年製作の映画)
4.4
「もっとノリの良い曲を掛けてくれるかな?」

政治家の息子デニは取り巻きや腕の立つ叔父をボディーガードにジャカルタのクラブやらを我が物顔で好き放題してきたが、遂に呆れた母親から「責任感を身に付けて普通の人の様に暮らしなさい」とマカッサルに強制送還されてしまう。
そこで母親の会社のテーマパーク設立事業も任される事になったが、環境保護を訴える少女テンリに出会い彼女に求婚を迫るサンレゴから護る為、サロンファイトの大会に参加するお話。


パッと見、日本ではレビューされていないっぽい作品なのでいつもより詳細にあらすじ書いてみました。
結構前からリクエストしていた作品で、2ヶ月越しに漸く掲載されました。やったね!
その後にリクエストした「君にサンキュー!」の方が即追加されていたのを考えると、やはり邦題があるかないかで大分変わってくるのね。
まぁどっちも視聴方法や日本語字幕無い所とかは同じなんだけど。

今作で扱われるサロンファイトって何ぞやって話なんですけど、まずサロンって腰に巻く布です。
広げると丁度人二人くらい入れる大きさなんですけど、そのサロンの中で素手で戦う形式となっております。
なので特徴としては、互いに常に射程距離内にいる状態での戦いになると言う部分が挙げられます。多分、選手の格闘スタイルは指定ないと思う。
かつては揉め事の解決の為、カランビットナイフとかで戦っていたSigajang Laleng Lipaと言う決闘が元になっているとのこと。
そしてデニにサロンファイトを教える師匠カリッド役に、我等が狂犬ヤヤン・ルヒアン。なので今作はヤヤン版「ベスト・キッド」とも言える作品です。
テンリの部屋にも「ベスト・キッド」のポスター貼ってあったし。

まずね、俺としては前からヤヤンが師匠として出る作品が観たかっただけに今作の設定は完璧でした。
やはり「ザ・レイド」のマッド・ドッグと言う強烈かつ激烈な悪役が印象的なのもあってか、出演作は悪役メインなヤヤンですが個人的に師匠キャラも凄く似合うんじゃないかなと前から思っていたので。
あと悪役メインでもマッド・ドッグに並ぶ存在感あるキャラとなると中々難しくて、それが最近「Wira」で漸く狂犬ばりの激強キャラを演じたことで悪役方面は一つ極まった感もありましたし。
当然ヤヤンが教えるとなるとそれはシラットな訳で、一人じゃろくに戦えない若者がヤヤン先生の教えで段々とシラットの技を身に付けて行く展開って時点で好きに決まってるやんけ!!

勿論ヤヤン先生もバトルシーンは少しですがあります。
小型のバス(?)みたいな所でサンレゴの取り巻き達にボコられているデニを助けるシーンでは、狭い車内でシラットと野菜を駆使した余裕のファイトが格好良かったです。
その後、他人に握手を求める事の無かったデニが「ありがとうございました。命の恩人です」と自ら手を差し出すくだりも良いですね。

内容的には青春スポ根っぽさがありますかね。
カリッドとの師弟関係は勿論、都会っ子のデニが地域の文化を楽しんだり、一方でテーマパーク設立を反対するテンリに惹かれて行き自分の仕事内容を言えずに葛藤したりと、主人公の成長物語としても普通に見応えはあります。

何よりゼロから教わるってことで、結構分かりやすいシラットの技を色々と拝めるのは非常に参考になりました。
ヤヤン先生直々に教えて貰えるとか羨まし過ぎぃ!
受けからの膝蹴りとか、イコ・ウワイスもよく使用していた動きもあり改めて流派は違えどシラットの技自体はある程度共通点はあるんだなと。

難点としては、国や地域に根付いた文化や価値観に共感し辛い部分もあることでしょうか。
結婚観も、いくら相手が嫌でも提示する金額が払えれば縁談成立してしまうってのは日本人にはあまりピンと来ないだろうし。

宗教についてもそうで、今作は宗教的な要素もありましてそれは良いんだけど何か祈りの力を過大評価し過ぎているような場面も。
例えばカリッドが祈りを捧げている最中、ヘビに脚を噛まれてデニが慌てて駆け寄るシーン。
カリッドが「私の身体を造られたのは神だ。そしてヘビの身体も神が造られた。私は今、誰に祈りを捧げている?ヘビの牙が私を傷付ける事は無いのだ」みたいな事を言っていて、流石にそこは成る程なぁ…とはならんけど!?と突っ込んでしまいました。
まぁプンチャックシラットも流派によって度合いは変わりますが、宗教的な思想はある武術ですし、それこそ「ザ・レイド」のオープニングではイコさんが祈りを捧げているシーンもありますからね。

たった1ヶ月で素人が決勝まで行けるものなのか、と言う突っ込みに関してはヤヤン先生が教えて下さっているんだからって事で納得出来るよな!
カリッドはサロンファイト界では伝説的な存在だし。

ラストの大会でのサンレゴとのバトルも、これ迄の集大成と言った技のぶつかり合いで中々アツかったです。あと審判がびっくりするくらい宮川大輔に似ていました。
テンリもそうだけど、デニの母親が客席で見守る姿もグッと来ました。
ただその後のアレは流石にサンレゴやそのチームメイトら後先考えなさすぎじゃね?とは思いましたが。まぁヤヤン先生の格好良いシーンがまた拝めたし、デニの叔父さんもナイス活躍だったので良しとしますか。

共感し難い部分もありましたが、全体的に「こう言うのが観たかったんです!」な青春シラット映画だったので超良かったです。
続編もありそうな終わり方でしたが、是非ともこの師弟コンビの行く末をまた見届けたいのであればいいなぁ。
因みにインドネシアのバンドン映画祭にて、ヤヤンは今作で助演男優賞を受賞しました。