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ロアン・リンユイ/阮玲玉 4KのBOBのレビュー・感想・評価

3.9
『ルージュ』のスタンリー・クワン監督、マギー・チャン主演で、1930年代に活躍した無声映画の大女優ロアン・リンユィの半生を描いた伝記映画。

「私って良い人間かしら?」🍸💋💋

マギー・チャンの女優魂とメタ的な構成が際立つ傑作伝記映画。156分と長尺の作品ではあるが、その長さに見合う感動と満足感が得られた。

3つのパートから成る、メタ的かつセミドキュメンタリーチックな構成が斬新。人気絶頂期に自殺して"伝説"となった女優ロアン・リンユイの激動の半生を、ロアン・リンユイ本人の出演映画の映像(現物)、再現パート(カラー)、本作のキャストを含む関係者へのインタビューパート(モノクロ)を織り交ぜながら振り返る。一本の作品で、中国映画業界の今昔比較を楽しめるのが魅力。

映画制作についての映画。1930年代中国映画産業で働く人々の様子を描いた内幕ドラマとして興味深い。個人的に、記者批判をした作品を国民党の後ろ盾を受けた新聞社組合から酷評され、制作陣が大幅なカットを余儀なくされるシーンが心に刺さった。無念だった。

「命は惜しくない。何より怖いのは人の言葉。言葉は恐ろしい。」
時に言葉は人を殺す。国民的スター女優を襲った悲劇のドラマを通して、メディアの力、世論の力、個々人の言葉が持つ力の大きさを改めて考えさせられる。マスコミによって、私生活まで売り物にされ、精神的に追い詰められていくという現象は、100年近く経っても変わっていない。むしろ、SNSによって、個人が発信する言葉の影響力と責任が肥大している現代において、本作が発するメッセージの重要性はますます増しているように思う。

マギー・チャンの迫真の演技に魅せられる。本作がマギー・チャンのベストアクトかもしれない。『花様年華』での感情を押し殺したニュアンス演技も素晴らしかったが、それとは対照的に、喜怒哀楽の感情を解放している本作の演技も素晴らしい。『新女性』のクライマックスシーンなど心に残るシーンは多々あったが、やはり、国際婦人デーでの会食〜ダンス〜別れ最期までのシークエンスが格別。彼女の一挙手一投足から目が離せなかった。激しく心揺さぶられた。

マギー・チャンは、チャイナドレスが似合う女優No.1だと思う。チャイナドレスが、そのスレンダーな体型を美しく引き立てている。華やかで艷やかで、実に優雅である。

「幾多の過ちを犯したのは、ただ孤独に恐れていたから。」
エンド・クレジットで流れる曲の歌詞がじーんと心に染みた。

中国の無声映画を観たのはこれが初めてだった。貴重な体験だった。

「人は時に弱くなる。だから、強くありたいと願う。」

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