悪魔の毒々クチビル

キル・フィストの悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

キル・フィスト(2019年製作の映画)
3.5
「俺がクソならお前もクソだ」

うだつが上がらない中年セールスマンが、ネトゲ仲間から地下格闘技っぽいゲームに誘われるお話。


マレーシアのアクション映画です。
主演は「ヘッドショット」でイコさんと壮絶なラストバトルを繰り広げたサニー・パン。
個人的に「ヘッドショット」での彼の存在感が非常に良くて他の作品も気になっていたものの、「シャドー・オブ・ナイト」ではこれまたイコさんと共演するもサニー自身は一切アクションの無い役柄で、当時はこの2作しか日本で観られる出演作はなかったんですよね。
そんな訳で日本ではかなり知名度も低めでして、カタカナで「サニー・パン」と検索してもパン屋の情報しか出てこないほど。
ところが今月にしれっとU-NEXTに追加されていて、サムネで「あれ?サニー・パンじゃないっすか!?」と速攻食い付いちゃった次第です。

まぁ、内容は…うん。
恐らくそこそこの低予算で作られたのであろう、チープなカメラワークは想定内として変に展開や物語にメッセージ性を込めようとしてそれが見事に作品の流れを悪くしていました。

ゲームは至ってシンプルかつ地味で、毎回時間になったら専用のユニフォーム(只の黒い長袖シャツ)と時計を着けて相手と戦い、勝った者が相手の時計に同期させて賞金を貰うシステム。
勝ち進む度に賞金額は上がっていきますが、この手のバトルロイヤル的なゲームにしては非常に簡素。ただこれは一応最後まで観れば納得は行きます。

サニー・パン演じる主人公チャン含め、メインキャラは3人います。
チャンと過去につるんでいて今は牧師をやっているジョン、苦学生のジーン。
各々苦境に立たされている訳ですが、そこも細かく描いているので90分程度の尺だと結構駆け足気味になってしまっていて残念でした。
結果的に成り上がりシステムのバトルを巻きに巻くという、アクションとしては本末転倒な状態でしたし。
おばさんの本気のキスシーンなんか映している場合だったのだろうか。
特に変態教師のエピソードは別に無くても良かったし、寧ろこれのせいで後半一度ゲームの主旨がぶれます。

サニー・パンのアクション自体は良かったです。
「ヘッドショット」の時とはまた違う、中国拳法っぽい動きや人差し指で急所や関節を破壊したりと、滑らかかつバイオレンスな立ち振舞いが格好良かったです。
元々総合格闘技のコーチもやっている人なので、やはり複数の格闘技経験があるんですかね。
が、確かにアクションは良かったんですけど、相手役がどれだけ動けるかによってかなり左右されていました。
仮にも段々と敵のレベルが上がっていく設定ながら、一番良かったのは中盤の眼鏡社畜との戦いでその後の2戦はどんどん殺陣のクオリティが低くなって行きます。
と言うかこの眼鏡社畜、これまた拳法っぽい動きやスコット・アドキンスを彷彿とさせる蹴りまで披露したりとどんな社畜だよ。

特に実質のラスボスであるジョン牧師との戦いは中々酷い。
それまでもジョンのバトルシーンは何度かあり、その時点で「強キャラ設定だけどサニー・パンと張れるレベルではないだろ…」と思っていましたがその通りで、もったりとした格闘をちょろっとして滅茶苦茶呆気なく終わります。
強いて言うならジョンの戦闘スタイルがビンタ主体なのは新鮮でした。あと構えている時の闇墜ちしたロッチのコカドっぽい、陰なオーラビンビンのキモい笑みが印象的でした。

ラストの展開はアクション映画と言うよりどんでん返し系のサスペンス映画に近いものの、正直意外性は無かったです。そりゃあんた黒幕じゃなかったら何だったのって話だし。
「今をどう生きようが過去の損失は取り消せない」っていうメッセージは良いんだけど、そこまで手広くやる余裕は今作には無かったと思いました。

どうでもいいけどチャンの職場の上司が東京03の角田似でした。

もっと激しいシバき合いが観たかったですけど、漸くサニー・パンのアクション映画が配信とは言え日本で観られるようになって良かったです。
この調子でヤクザ役のサニーがまたデスゲームに放り込まれる"Exiled: The Chosen Ones"も観たいから、日本に来てくれよな!