Kuuta

アンダーグラウンド 4K デジタルリマスター版のKuutaのレビュー・感想・評価

4.5
二つの世界を繋ぐ回転の美しさと恐ろしさを、スピルバーグはフェイブルマンズで映画のフィルムになぞらえた。今作で子供の出産を照らした自転車のライトは、戦後、映写機に変わっている。現実と虚構を繋ぐ媒介として、回転が現れる。夢と現実を混ぜた狂気、映画でこそ歴史が残る。「俺たちも患者。まだ診断されてないだけ」。

・結婚式のシーンは楽しくてずっと見ていられる。地下の住人の夢が覚めかかっているのに、無理やり祭りで繋ぎ止めている。そもそもこの状況を作ったマルコがクソすぎるが、旧ユーゴというチトーの理想が軋み始めている、とも言える。

そこに放り込まれるナタリアの振る舞いがすごく好き。変わり身早く自由に生きる女優のはずなのに、戦後は夢と現実の間で一つの役を演じ続け「20年間血を流した」。与えられた役割=セリフを時折挟みながらも、酒飲みまくってこんなん正気でやってられるかと怒り始め(コップの奪い合いギャグが単純に楽しい)、楽団の狂気の回転に混ざってマルコをぶん殴り、クルクルと舞い踊る。

結婚を決める場面から「自分でも夢かどうかわからない」と言いつつ夫婦はほろ酔いでめっちゃ回っていて、最終章で燃えながら回る。

この夫婦、家でもスラップスティックをやり倒しててほんと楽しい(口髭の強調はマルクス兄弟?)。ナタリアが酔うと靴脱ぎがち、人殴りがちなのが可愛いんだけど、その行動にはマルコに目を醒まして欲しい心理が現れているようにも見える。マルコはナタリアの暴走を止めようとする時、酒のボトルを自分の頭に叩きつけて割るが、こちらはこちらで、自ら夢を脱しようとしながら結局酒を浴びている、という倒錯がある。

・クロは共産主義という理想、アンダーグラウンドの住人なので目線がブレない。チトーの時計を渡され、マルコの嘘を信じる場面、2人で頭をぶつけ合うが、マルコだけが痛がる。電気ショックにも耐えるクロは頭が頑丈で、夢から醒めにくい。
堂々と舞台に入り込み、作られた英雄譚の撮影現場を一直線に薙ぎ倒していく。しかし息子の幻影を追い求めて狂気への一歩を踏み出し、更なる地下に落ちる瞬間、カメラが回転する。

・動物園が爆撃される冒頭の混乱は、使役される動物の脆さを人に見立てて描いてきたクストリッツァの真骨頂だ。戦争は弱い立場の人を真っ先に食い潰す。そんな怒りが伝わってくる。黄泉の国から牛の大群が這い出てくるラストは若干ジブリっぽくも見えた。

・マルコの戦後の行動はあまりに身勝手で冷酷。クロの振る舞いにも多少問題があったとはいえ、マルコの底なしの欲深さは、空爆中もセックスをやめないどころか1人でも続ける執念に表れている。女性の尻を見てニヤける→尻の穴に花を差し込む→鏡に反射させて三つに増やす。アホすぎる
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