イルーナ

リンダはチキンがたべたい!のイルーナのレビュー・感想・評価

4.3
亡き父の思い出の料理、パプリカ・チキンを食べたかっただけなのに。
どうしてそうなるの?!

フランスからやって来たアートアニメ。
OPのポルカドットによる過去紹介に始まり、人物は全員ベタ塗りの単色で表現。筆で描いたような線と背景はまるで絵画のよう。
人物からカメラが引くと円状の塗りだけになる演出。それでいながら雲や闇の表現、走っている時の躍動感は凄くリアル。
真っ先に思い出したのは、原色メインのカラフルで伸びやかな線の野獣派の絵。特に私の大好きな画家・ラウル・デュフィを思わせるものがありました。
おまけにミュージカルシーンもあり、その表現力はさらに自由に。
大好きな画家の絵が動き回っているかのようで、まさに眼福でした。

リンダの母ポレットは母親キャラにしては珍しくダメっぷりが強調されてて、誤解から娘を打って姉に押し付ける。
子供の責め方が「いくらなんでも理屈が飛躍しすぎてない?!」でちょっと引くレベル。
で、誤解が解けてからはお詫びにパプリカ・チキンのための鶏肉を求めるが、あいにく街中ストライキ中で買えない。
仕方なく養鶏所で生きた鶏を買おうとするがそこでも断られたため、盗みを決行!
しかし料理経験のないポレットは鶏を締めることができず、そうこうしている内に鶏が逃げ出して騒動をどんどん拡大させていく!
取り巻く大人たちは絶妙にポンコツぞろいで誰も絞められない。
結局鶏を締めたのはリンダだったし……この時の鶏に囁くリンダの演出が印象的。
その締めるシーンは直接的に描かず、出てくるのは父親の姿。そういえば思い出の象徴である鶏は父と同じ赤で描かれてましたね。

にしても、団地の子供たちは本当に生き生きとしていてやりたい放題やってくれるのですが、やっぱフランス人は“革命”しないと気が済まないのね。
鶏はフランスのシンボルですが、授業でフランス革命を取り扱っていたのが象徴的。それを殺して食べるということは……?
(スイカをボール代わりにしてたけど、あんなに弾むものなのか……?)
「キャラクターたちの倫理観が終わっていて受け付けなかった」という意見も見られたけど、そういう方の気持ちも分かるレベルで本作はエゴの強い強いキャラばかり。
終始妹のダメっぷりにキレ散らかしていたアストリッドが不憫なレベル。
ストライキの件と合わせて、お国柄の違いをひしひしと感じられるはず。
(とはいえ、これがもしクレしんやこち亀みたいな絵柄だったらあまり言われなかった気もするけど)
それでも最後は、団地のみんなでパプリカ・チキンをシェアしてめでたしめでたし。
これらの騒動も、後になって振り返ればきっと素敵な思い出になるのでしょう。

ちなみに入場者特典は「パプリカ・チキンのレシピ」。
登場人物たちと経験をシェアできるという意味でナイスアイデアな特典でした。
イルーナ

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