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コンクリート・ユートピアのRenのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
4.5
これが今年度アカデミー国際長編映画賞の韓国代表作品であることを鑑みると、「家(家族・コミュニティ)×格差×ジャンルムービー」で全世界に間口を広げた『パラサイト ~』の偉大さを知り、実際それが韓国映画の強みになっている事実に殴られる。文句無しに面白かった。

『パラサイト 半地下の家族』と『逆転のトライアングル』の合盛りといった印象を受けた。説明無しに突如訪れるディザスターをきっかけに、社会が、人間がリセットされたらどうなるのか。考え得るネガティブな項目一つひとつを、目まぐるしい群像劇として潰していく。
貧/富の逆転そのものにフォーカスした作品ではないのが面白い。未曾有の災害によって生存本能と染み付いた資本主義と家父長制以外を身ぐるみ剥がされた裸の人間たちが、攻撃性の鎧を一つひとつ身に付けていってしまう話。「人間」という何があっても逃れられない業の話だった。
法治国家の体が崩壊(←外界の瓦礫の山は建物や道のことだけではない)すれば従来の道徳は成り立たなくなり、しかし極限状態で人間たちが完璧な「新しい道徳」などというものを築ける訳がない。でもそれが普通なのだという人間観が通底している。
元より自分は「本性を現す」が悪行の喩えな時点で性悪説を信じているので、この映画が伝えようとしていることはずっと分かった(つもり)。今作に別タイトルがあるなら「普通の人々」かな。

全体の生存が目標だと誰もがどこかでは分かっているはずなのにそれを実行できない(しない)のが人間である。全体の問題のはずが、少し目を離すと個と個が殴り合ったりしている。皆んなめちゃくちゃ個人的な恨みとかで動いてる。
「家族(≒コミュニティの内側の人)を守ろう」→「それ以外は守る意味の無い他人」→「だから全員は救えない」という血縁主義・家父長制最悪三段論法によって、形式的な線引き(内側の人間か/他所の人間か)で命を選別する方針が、ついさっきまで一般人だった「普通の人々」の多数決で決まる地獄。しかし似たようなことは今も世界中で起こっている。内側の人間からすればそこはユートピアだから(それを無自覚にいい話として描いてしまったのが日本で大人気な某夏戦争)。

聖人であれ、ということ。人々のために尽力すること。人々を救うという一手を普通の人はできないからこそ聖人は聖人たり得るのだ。教会のモチーフはあざとい気も少ししたが、その分間口の広い人間ドラマとして閉じていることを評価したい。

これらの思想を作品に盛り込むこと自体はそこまで苦でもなかろう。が、韓国映画の凄まじさはエンタメ濃度との両立にある。
今作もディザスターパニックものと心理サスペンスに重心を置きつつ、ど派手なVFXと刺激的な画でギョッとさせながら群像劇として物語を転がし続ける。何も起こっていない時間が無い。怖いほどテンポが速い。一瞬も暇が無い。しかも前・中・終盤で中心人物が入れ替わり、倒叙的な要素が2〜3個同時に進んでいく。過剰なまでのサービス精神。まずはジャンル映画として飽きさせないぞ、という心意気が嬉しい。

若干惜しいと思ったのは、物語の駒に甘んじているキャラクターがいたこと。「次の事件に繋げるためにこんなことをするキャラ」「彼らの "普通性" (="異常性")を縁取るためのキャラ」など、メイン3人以外の人間が記号的だった気はした。

イ・ビョンホンの迫真演技はいつ観てもいい。今作でも『悪魔を見た』の延長にあると思われる演技を垣間見ることができる。
パク・ソジュンは着実に大スターの貫禄を身に付けていく。『梨泰院クラス』の頃から十分すぎたけど。
パク・ボヨン、初めて出演作を観たけど、自分の中の道徳に従う善・正義的ポジションがとても似合っていた。井上真央と重なる。

時世が時世なので万人に堂々とお勧めはしないけど、気になった人はあらすじを確認し精査の上で鑑賞されたい。現実で胸が痛くなる災害が起こっている中、この作品を大味なSFととるかリアルととるか。数年後に今一度鑑賞したい。

その他連想作品
○ 『ミスト』
○ 『新感染 ファイナル・エクスプレス』
○ 『#生きている』
○ 『林間に燃えた商魂』(こち亀の名作エピソード)
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