スワヒリ亭こゆう

52ヘルツのクジラたちのスワヒリ亭こゆうのネタバレレビュー・内容・結末

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

映画を2本観に行って1本目が本作だったんですけど、2本目の映画に本作を引きずるぐらい良かったですね!
映画の感想を書いて良いのかなって思うぐらい登場人物に感情移入してしまいました。実際の人物に対する配慮に近い感情を抱きます。凄い映画でした。
本作ではネグレクト、DV、介護…沢山の問題提起をしています。
で、それに対して紡がれていくストーリーが様々な問題を孕んでいるのに、わざとらしくないんです。
なので自然に同情や怒りや虚無感など観てる側が問題提起の数だけ感情が湧いてくる感じがします。
ここ何年か観た映画では最も心を揺さぶられました。めちゃくちゃ大傑作だと思います。

ストーリーも良かったけど役者も素晴らしかった。
杉咲花さんが素晴らしい女優なのは分かっているけど、三島貴瑚という女性を演じたのは凄いと思いました。複雑な役でしたね。心が壊れそうな女性がスクリーンにいるんですよ。それを黙ってジーッと観ている観客に訴えるメッセージが彼女の演技から伝わってきました。
それと志尊淳さんも凄かったですね。初登場シーンで顎髭を生やしているのに違和感を感じて、それがキチンとストーリーに繋がっている演出も見事でした。
アンさんという人間を演じた志尊淳さんの役者としての勇気も素晴らしいと思うし、アンさんが映画のキーマンになるんですが、貴瑚とアンさんの運命を観ているのは、とても辛くて悲しかった。

⚠️⚠️⚠️⚠️ネタバレ注意⚠️⚠️⚠️


⚠️⚠️⚠️⚠️ネタバレ注意⚠️⚠️⚠️


⚠️⚠️⚠️⚠️ネタバレ注意⚠️⚠️⚠️
アンさんが元々は女性だった事は早い段階で想像が出来ました。ですが、早い段階で気づいた事が結果的にストーリーに没入させてくれましたね。
僕は自殺は絶対にダメだって思ってます。
ですが、他人よって社会と切り離されてしまう人に自殺はダメって言えないよなぁって思いましたね。
あまりにもアンさんの運命が惨すぎる。ただ映画を面白くしようとして惨い訳ではないんです。こういう思いをされてる人を想像させるんです。
こんな思いをして自殺したくなる気持ちが分かってしまうのが観ていて苦しかった。
幼児虐待、ネグレクト、DVなども実際に事件で起こってます。しょっちゅうニュースでやってます。
本作で語られる社会問題はリアリティがあって作り込まれてると感じます。
アンさんにしろネグレクトにしろDV彼氏にしろ社会から勝手に切り離されてしまうのは怖いです。
多様性を認めようっていうスローガンの様に掲げられている現代社会。ですが多様性を認めようっていうのが僕には檻の様な気がします。
アンさんが貴瑚を救った様に、嫌な場所に留まらなくて良いんだっていうのが胸に響きました。
家族って呪いになるっていうのも目から鱗です。
多様性を認めようじゃなくて社会は多様性に溢れてるんだから好きな場所、好きな人と生きれば良いし、一人でいても良い。無理に生き苦しい思いしなくて良いんだって社会になると良いなって思いました。多様性を認めようをスローガンに掲げた社会が溢れる。それでも認めてもらえない人も絶対にいる。そんな人は社会から切り離されてしまい、生き場を失ってしまうんじゃないだろうか…
家族もそうです。子供がネグレクトや虐待に遭ってるのを家族から救える社会じゃないと悲惨な事件が絶えないです。
そんな複雑で悲しくてやるせない時に小野花梨さん演じる美春が貴瑚に言った言葉の優しさが全て救ってくれる気がして、その途端に涙が止まらなかった。小野花梨さんも良かったなぁ。存在感があります。西野七瀬さんのネグレクト母ちゃんも凄かった。女優として一皮剥けた演技に感じました。
滅多に映画館で泣く事は無いんですけど、涙が止まらなかったです。
感無量でした。