たくみ

悪は存在しないのたくみのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.6
【彼女に対して「お前」っていうタイプですか?】
Bunkamura ル・シネマで鑑賞してきました。
初めていったけど綺麗でオシャでした。
オシャレ過ぎてアイスカフェオレなんか普段映画館で買わんもん買ってもうた。

オスカー受賞して初の濱口竜介作品なのになんでこんな公開館数少ないんよ。
こういう映画こそシネコン頑張ってくれよ。

結構絶賛ムードっぽいけど個人的にはそこまでハマれなかった。
正直あまり起伏がないように感じ、そこで終わるんだって拍子抜けしました。

けど、面白くなかった訳ではなかったです。
芸能事務所の2人の社内のシーンの人間臭さみたいなものはとても美しかったし、グランピング施設の説明会で村を守るために淡々とボコボコにする村民もリアルで血が通ったものになっているなと感じました。

タイトル通り「悪は存在しない」訳ですが、何がきっかけで線引きが変わるかは結構曖昧で、それは人間がどこで暮らそうが変わらない気がします。
会社員として後輩を思って厳しく仕事を教えていたとして、そのまま後輩が成長すれば数年後に「先輩に厳しく指導してもらったおかげです」なんて思い出話に花が咲くかもしれない。
けど、その子が途中で鬱になって自死を選んだら一気に”悪”に変わりうる。

この映画のラストも結局そういう事だったんじゃないかなと思います。
高橋は高橋なりに歩み寄ろうとしたが、歩み寄り方が良くなかったのだと思います。
薪を一本割って「俺の居場所はここだ」、うどん食って「温かくなりました」、施設の建設後に鹿は何処に行くのかという問いに対しての「どっか別の場所に行くんじゃないですか」。
捉え方によってはよそ者が自分たちが大事にしてきた自然を壊しに来ているとも取れるような気がします。

ただ、ラストの鹿と花が向き合っているシーンも現実がどうかは定かではない気がします。
花が倒れている事だけが事実で、それに至る経緯を勝手に想像して鹿からの警告として捉え部外者を排除するべきと判断したのかもしれません。

自分たちの利益のために自然を壊すことは悪。
自然を壊す人間を排除しようとすることも悪。
自分の娘に気にせず、気づいた時には死なせてしまっていた事も悪。

けど、誰も明確に加害はしていない。
だからやっぱり「悪は存在しない」のだと思います。


【その他メモ・独り言】
・OPの木だけ映るシーンまじで寝てまう。
・鹿は普通人間に危害を加えない。手負いの場合を除いて。
・EVIL (悪)
 EVIL EXIST(悪は存在する)
 EVIL DOES EXIST(悪は間違いなく存在する)
 EVIL DOES NOT EXIST(悪は存在しない)
⇒この順番でタイトル出すのマジで痺れた。
 本作鑑賞中の観客の心の揺れ方そのものみたい。
たくみ

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