藍紺

悪は存在しないの藍紺のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.3
冒頭、不穏な劇伴が流れる中、樹々を延々と映し出すロングショットから緊張感MAX。タイトルからも絶対に良くないことが起こるんじゃないかと身構えながら鑑賞。

いやー、面白かった!気付くとずっと今作について考えてしまう。不意打ちの様なオープンエンドも頭から離れない。濱口作品の真骨頂である会話劇も健在で、ちゃんと楽しい。特に東京長野間の車中シーンは白眉!!!うどん屋でのかみ合わない対話には爆笑した。しかし、ただ楽しいだけではなく重苦しい余韻もきっちり心に残される。

単純な“都会VS田舎”ではない。グランピング施設建設のためにやってきた高橋と黛の“ひととなり”を観せられると、決して悪人じゃないよなあと気付くのだ(まあ社長やコンサルはろくでなしだが)。地元住民と対話し意見を取り入れながら計画を進めようと考え、譲歩できないかとあれこれ画策するのだけど、根本的なところにもう無理があって破綻するのは目に見えてる。絶対にうまくいくわけないのに計画が進みだしてやめられなくなってることって現実にも多々あって身につまされる。やめたらどうなるかを確認しようがないということが大きくて、結局最悪なことが起こった後に猛烈に後悔することになる。

「水は高いところから低い方へ流れる」
「誰かが割りを食う」
「大事なのはバランス」

“悪は存在しない”んだけど、人が意志を持つ持たざるに関わらず行動していくことが、何らかの要因になり、小さなひずみが大きなうねりとなって、一番弱い者に影響を及ぼす。間違いなくこれは私の物語だと感じた。他人事ではない。
藍紺

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