『GIFT』では石橋英子氏のライブパフォーマンスと並列扱いだったサイレント映像が、こちらでは完全に劇映画として前面に出ているわけで、まさしく濱口ワールドの独壇場であった。たしかに『GIFT』はガッツリ今作のネタバレだったといえるけど、それによって満足度が削がれることはない。少なくとも、劇場全体が何度も爆笑に包まれるような、あんなにも楽しすぎる会話の応酬が用意されていたなんて全く知り得なかった。やはりグッさんは「脚本」の人である。
たとえば宮崎駿氏が見たら「自然からしたらね、所詮人間なんてみんな悪なんです」とかコメントしそう、例のラストも含めて。本当に、悪は存在しなかったのだろうか？
住民には住民の言い分があり、グランピング建設を強行する側にも事情はある。ただ住民は必ずしも真っ向から反対するわけではないし、都会から来た人々も彼らへ歩み寄る態度を示す。そのやり取りの中にはたしかに悪は存在しなかったかもしれないし、むしろ善が存在していたようにも見える。しかし一方で、唐突に訪れるあの結末にはそれらすべてを否定するほどのインパクトがある。自分がどこに視点を持つかによって、見え方や判断基準はまるで変わってしまう。劇場が明るくなってもしばらくただ頭を巡るのは「水は低い方へ流れる」という言葉だけである。
以下余談だが、お隣の方の鑑賞マナーに悪が存在することを確認してしまって、なんだかゲンナリ。もう大入りの劇場にあえて行くのも考えものだな、とまで思わされる一日だった。いや、自分が気にしすぎなだけだ、視点を変えるのだ、と言い聞かせながらも。
