麻衣

悪は存在しないの麻衣のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

思ったよりかなりGIFTだった。でもGIFTよりも(実際にそうかはわからないけど)映像と音楽、お互いがお互いを立てようという慮りが相対的に少ない気がして、それが良い方向に作用してると思った。
『悪は存在しない』という一見すると言いたいことド直球に思われるタイトルは、最近流行りのPOVを変えると実はそれぞれにそれぞれの事情があって各々の言動に至ったのだみたいなプロットを想像させるが、そうではないところがすごく信用できる。そういう作品では登場人物のみんながみんな自分を正しいと信じ込んでいることが多いけど(『怪物』とか)、この作品に出てくる人たちは端から相手には相手の事情があるということを理解していて、その上で対話を通して歩み寄ろうという前提を持っているのが良い。お話はそこからだろといつも思ってたから。同時に描くのが大変だろうとも思うけど。
自然や動物と違って人間は言葉によるコミュニケーションを図るから言葉を尽くせばわかり合えるだろうと信じ、彼らもそのために努めるけど、ラストの巧の行動でそれが突然破られる。暴力によって高橋をねじ伏せる様は野生的で、そこにどういう真意があるのかわからないが、自然や動物に対してどういう真意でそんなことしたんですか?って聞かないのと同じように、理屈とかなしにただ結果としてそうなったというのが人間にもあって然るべきだよな。そしてその行動自体に妙な納得感があったのも不思議。
GIFTという音楽がメインの映像作品のための素材からつくられたものだからか、濱口作品に特徴的なセリフの応酬は確かに存在しているけど気持ち控えめで、それと同じくらい映像に魅せられる部分が増えた。というか他作品でもめちゃくちゃいいショットを撮っているのだろうけど、頭の中でセリフを処理し続けるのにいっぱいいっぱいで気づいてなかっただけかもしれない。自然が相手だというのも大きい。ショットの途中で巧の姿が見えなくなって、次に出てきたときに花を背負ってるとこ好き。
『ハッピーアワー』にも出ていた皆さんが素敵に歳を重ねていて嬉しかった。大美賀均(巧というべき?)濱口竜介っぽかった。
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