neokamakiri

哀れなるものたちのneokamakiriのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
前情報ゼロで見るべき、五感が刺激され倒す圧倒的映画体験。唯一無二の作品であって、これ以上もこれ以下もない。完璧で稀有な、愛くるしい作品。
タイトルバックから普通の作品でないことが一瞬でわかるが、エンドロールの最後までその印象が変わらない。2,000円でこれほど濃密な2時間22分を過ごせるのはお得としか言いようがない。刺激の波に打ちのめされ、終映後に立ち上がるのが勿体無いと感じたのは久しぶり。

生の意味を問う哲学的かつ宗教的な作品であり、常識を常識たらしめない非現実的なところはSF作品であり、主人公の成長譚でもあり人間讃歌でもあり、ロードムービーでもある。一粒で何度美味しいんだ!という濃厚な世界観。どこの時代のどこの世界かさっぱりわからない(敢えて提示しない)、完成された不完全の美しさ。

原作ありと知りませんでしたが、これに魂を吹き込んだ演出、美術、音楽、全てが素晴らしい。モノクロがカラーに変わる刹那の輝き。足。踊り出した瞬間に世界も踊り出す凄さ。様々な撮影方法が採用され、全てのカットが一つの絵画のような格別な味わい。独特な衣装と、ゴッドの家をはじめとしたセットの美しさも凄まじい。不協和音こそが世界にに調和をもたらす、繊細な中の大胆さ。体当たりすぎるエマ・ストーンがベラという唯一無二の存在を創り出す。偏屈な愛に溢れるウィレム・デフォー(シャボン玉)やマーク・ラファロ、支えるキャスティングもパーフェクト。

道徳観、特にセクシャリティが崩壊している点で、嫌悪感を抱く人がいて当然の作品。デートにも全く向かない。が、世界が完全に壊れると、一周回って完全な美しさを作るという事実の衝撃。生と性、自由と冒険と好奇心。これを映画と言わずして、何を映画というか。必ずアカデミー賞を取ってほしい傑作。
neokamakiri

neokamakiri