やべべっち

瞳をとじてのやべべっちのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.1
寡作で有名なビクトル・エリセ監督の最新作。余りにも計算し尽くされた豊穣さを作品の中に取り込んでいるのが直感的に分かりこの作品の意図を読み込めているのかそんな畏れを感じさせる映画だ。

フリオ・アレナスというイケメン俳優が映画撮影中に失踪する。当時の映画監督であったミゲルが22年後TV番組出演依頼を受けた事をきっかけに当時の関係者に会い当時の追憶に耽る。そして海辺の介護施設に健忘症となったフリオと再開するという話。

たったそれだけの話を169分という長さにしてほぼミゲルをはじめとした老人による追憶の映画でしかないのにこの映画はずっと見ていられるのだ。それは絶妙に語らせずにいないという事と「場」の力があるのだと後から気がついた。

マックスと映画試写室と語り合うシーン、かつての恋人ベラと暖炉の前で語り合うシーン。とりわけ美しかったのは農業をやりながら海辺の掘立小屋のような家に犬とミゲルは住んでいるのだが近所に住んでいる若者夫婦と一緒に食事を取りギターでかき鳴らし歌を歌うシーンだ。

過去を追跡する男と過去を忘却している男。二人は親友であった。ミゲルは老いに対する畏れがフリオを病気に追いやったのではないかと推測する。老いや病気は自分の意思とは関係なく身体が引き起こすものだ。フリオの健忘症は現世の痛みから逃げる為に身体が引き起こし出したものだとしたら。「別れの眼差し」を観たフリオが何かを悟ったように瞳を閉じた時次の瞬間に彼の顔に浮かぶのは歓喜だろうかそれとも後悔だろうか、恐れだろうか。
その結末は永遠にわからないまま余韻を最大化させる終わり方はこの上なく美しかった。