ぽん

落下の解剖学のぽんのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.2
自宅で転落死した夫。殺人容疑で裁判にかけられる妻。殺したのかい?それとも自殺なのかい?どっちなんだーい?パワーーーーッ!っていう映画。(ちょっと違う)

フーダニット(誰がやったか)のミステリーかと思いきや、結局、夫婦のありようを丸裸にしていく(解剖していく)話だった。夫婦間の格差、子育てをめぐる意識の温度差、家庭内の役割分担の不均衡などなど、お互いに相手に対してネガティブな思いを抱えてるのは別に特別なことじゃない。普通ならそんなものは家庭というブラックボックスの中で曖昧に溶かされて流れていくものだ。
それがこの夫婦の場合はお互いに物書きで、夫と妻、両者ともに相手に負い目があって、たぶん日常的に神経を尖らせて過ごしている、或いは敢えて問題から目をそむけて逃げている、そんな危うい関係性にあった。

そこに夫の死という決定的な出来事が起こってしまった。状況からは他殺とも自殺とも取れる。検察、弁護人ともにそれぞれの主張を通すには、夫婦の行動だけでなく思考にまで立ち入らなければならない。そうやって動機を解明して他殺なり自殺なりの蓋然性と合理性を示すのだ。
裁判において被告人である妻、息子、関係者の証言は、夫婦のプライベートな部分もさらけ出していく。えーそんなことまで暴露されちゃうのー?という地獄のシークエンスもあり。

この作品、一見ミステリーっぽいけどそうじゃなかったのが良かったですね。というのも自分はミステリー作品があんまり得意じゃなく。犯人捜し、真相究明の謎解きがメインのお話って、アッと驚くトリックの巧みさを披露するのが主眼で、登場人物は物語を転がす駒に見えてしまって。
でも、本作の場合は、何がミステリーって人間存在そのものが謎だよねっていう、人のココロの不思議に迫っているのでかなり刺さった。真相より何より、夫も妻も息子もしんどくて、もがいてて、彼らがそのつど発する言葉に感じ入ってしまった。言ってること矛盾してたり自己チューだったり冷徹だったり、ぜんぜんキレイな物語に収まってないのだけど、それが良かったかな。人間ってそういうもんだと思う。

何よりワンコが可愛いのでそれだけで大満足ですよ!ワンコの熱演に泣きました。
ぽん

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