近本光司

墓泥棒と失われた女神の近本光司のレビュー・感想・評価

墓泥棒と失われた女神(2023年製作の映画)
4.0
ローマで三線目となる地下鉄は都合十年近くの工事期間を経て、2013年にようやく開通を果たした。あのときローマを案内してくれた友人に、掘り進めるたびに何がしかの古代遺跡が発掘されるので、工事は度重なる中断を余儀なくされたと教えられた。
 「キメイラ」と名づけられたロルヴァルケルの新作は、ローマと隣接するトスカーナ地方のRiparbellaという土地を舞台に、地中に眠る古代エトルリア時代の遺跡を掘りおこし、その財宝を売り払って一儲けを企む若者たちを描く。刑務所から出獄して帰郷するイギリス人の無口な男と、おしゃべり好きなイタリアの田舎者たちの織りなす青春の一頁。何よりもあの美しいイタリアの風景のうちに生きる人びとの存在感に心を打たれる。『幸福なラザロ』の主人公の立ち姿に絆されたのとおなじように、もはやそれだけでよい、というような。
 キアロスタミの映画で、小高い丘の上でひとりで穴を掘っていた男が出てくる映画、あれはたしか『風が吹くまま』だったかな。美しい土地に生きる人たちにただしくカメラを向けるだけで映画は撮れてしまう。キアロスタミもロルヴァルケルも一緒だ。