月うさぎ

PERFECT DAYSの月うさぎのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
木漏れ日
この言葉を知らない日本人はいないだろう
でも、この言葉が日本独自の言葉である事はご存知だろうか?
この映画では、木漏れ日が主人公とリンクして表現されている。
木漏れ日を、揺れ動く木々の間から覗く光の様と表現しても、私たちが「木漏れ日」という言葉から受け取る温かさや、ほんのりした幸せや刹那的な時間感覚というものは、きっと外国人には理解し難いだろう。
でも、それを「平山」を描く事で伝えようとしている。
ヴィム・ヴェンダースは実は日本人なのか?

映画の中で平山の観る夢の映像に現れる木漏れ日
これはヴェンダース監督の妻であり写真家のドナータさんの作品なのだそうだ。
彼女こそ、木漏れ日の言葉を直感的に理解した方だった。

ヴィム・ヴェンダースが第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した「PERFECT DAYS」。
ずっとずっと観たかった。
 
ヴィム・ヴェンダースと役所広司のコラボな上に、ドイツと日本の合作である事、
それ以上にPERFECT DAYSのタイトルがルー・リードのPERFECT DAYから取られたものであるという喜びから♪

どこでこの曲が使われるのかな?
変わらぬ日々を過ごす平山に嬉しい出来事があった日。ラジカセでかけて聴いたのがこれでした。

Oh it's such a perfect day

私はルー・リードの声が大好きだ。
それは居心地の良い荒廃を思わせる。

この映画でかかる曲は全てBGMではない。
平山が車で移動中、もしくは自宅で、カセットテープで選んで聴いている曲という設定なのだ。
私たちは彼と共に彼の気持ちに添う音楽を聴かせてもらっている。
演じる役所広司も実際に同じ曲を現場で聴いていたそうだ。
そういう意味で時差のある同時体験をしている訳。

名だたる建築家が手がけた東京トイレット計画から選ばれたトイレの美しさも心に残る。
平山の読んでいる本も読みたくなるし、聴いている曲もいい。

平山の生き方にも教えや気づきがある。

どうやら、金持ちエリート界からドロップアウトして、めちゃくちゃ傷ついた人らしい。
自分の世界で生きる事を願い、他者と関わるのは最小限に心がけている。
他者を拒絶するからではなく、他者の世界を大切にする為。つまり自分が他者に干渉し影響を与える事を避けようとしているように見えた。
そして東京はそういう生き方が選べる町である。
よく大都会の匿名性なんて言われるけれど、それより透明性に近いと思う。
その気になれば、東京では人は透明になれるのだ。
それは気づく人にしか見えない、木漏れ日や、大樹の根元の小さな芽ぶきと同じであるのだろう。
しかし気づく人は必ずいるのだ。
それを忘れないで。
希望は捨てないで。

一日に必要なものだけ、手に入れれば、それで満ち足りる。
目的も使い道もない金やポイントを貯める事で人生をすり減らしている人とどちらが人生を生きていると言えるだろう?
新しい朝が来れば、その朝をいい一日にすれば良い。

刹那的というのとも異なる。
なぜなら平山は毎日写真を撮って、それを日記のように保存しているから。
一日一日を愛した記録だろう。
それがなんの変わり映えもない平凡な日々であろうとも
太陽も風も季節も、常に移ろい同じ時は二度とこないのだから。

夢や目的がなくても、日々を生きる事を大切にしていいのだよ。
現代人は身の丈に合わない贅沢さや過剰な「承認欲求」に振り回されているのではないか?

という私もなんでレビューをここにアップしているのか?

平山のようには生きられないな。
まだまだ煩悩だらけです。

(映画に教えてもらったいい情報)
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