七色星団

窓ぎわのトットちゃんの七色星団のレビュー・感想・評価

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
3.8
良いことも悪いことも、その時代をしっかり描く映画、そして知らない時代のはずなのに僕らはその時代の延長線上に生きていると、そう感じさせてくれる映画にハズレはないねぇ。
ただ、惜しむらくはキャラクターデザインにクセが有り過ぎて、最後まで慣れませんでした。

それにしても絵が何処を切り取っても美しい。また人の所作の一つ一つに細かい動きが付けられているのにも感心した。
座るとき、膝を付く時にズボンを履いている場合はそのまま腰を下ろすとズボンが全体的に突っ張って座りにくい。だから動作の前にズボンの膝上辺りを一度少し上に引いてから腰を下ろす―
そういった細かさに目を奪われてばかりだった。
立つ、座る、歩く、走る、寝転ぶなど、すべての動きがリアルに生きる僕らの世界と同様に自然で、かつ静と動のメリハリはしっかり付いてるという、原画・動画マン達の大変さが忍ばれます。

あの年頃の子達ならではの心を表現したファンタジー描写も素晴らしかった。
小児麻痺で手足の一部が不自由なやすひろちゃんが水の中で、多分生まれて初めて自由を得て、楽しくてしょうがない彼のワクワクとゾクゾク、シーンの躍動感と美しさには思わず落涙した。

終盤、そのやすひろちゃんが亡くなって悲しさのあまり教会を飛び出し街を走るトットちゃんの目に入ってくるのは戦中である彼女の住む街の、日本の現実。
出征する人を見送る人、戦争で手足を失った人、家族を失った人、戦争がもたらす悲しみが充満する街。
トットちゃんにとって輝きに満ちていたはずの街は地獄のようであったろう、ここの演出には寒気がした。背筋に冷たいものが走った。

友を失い、学校を失い、家も失ったトットちゃんは、それでも前を向いて進む。
映画序盤に幸せで賑やかな時代の象徴として登場したチンドン屋さん。
そして疎開先でチンドン屋さんを見たトットちゃんは、あの幸せで賑やかな時代に向かって前に進む。

いや〜まさかこんな作品だったとは。強烈な反戦映画。鑑賞中のメンタルの高低差に耳キーンですわ。

自由。その素晴らしさを謳った映画でした。
そして大人がケツ持ちするからこそ子供は自由になれる訳です。大人はそれを肝に銘じねばならないと、気持ちを新たにしましたね。

徐々にきな臭くなっていく現代において、これは今観ておかねばならない作品ではないでしょうか。
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