たく

LONESOME VACATIONのたくのレビュー・感想・評価

LONESOME VACATION(2023年製作の映画)
3.8
リーゼントを決めた探偵が元恋人の調査依頼を請け負う突飛な話に、大人の不倫と若者のささやかなロマンスが絡むという奇妙な青春要素があって面白かった。ポスターから汗臭い内容を予想してたらすごく繊細で、文学口調で喋る主人公にどこか昭和のアングラ映画の懐かしさが漂う。ギャグ要素もけっこうあってほのぼの感も味わえた。K’sシネマで観て、上映後に古谷役の藤江琢磨の弾き語りミニコンサートがあったのが思わぬご褒美だったね。

ばっちりリーゼントを決めてロッカーの出たちをしてる古谷が実は探偵業を営んでて、そこに彼の大学時代の元カノの今日子が亡くなった父の遺品の8ミリフィルムに映ってた見知らぬ女性の素性調査を依頼しに来る。この探偵事務所が立ち飲み屋の2階にあるというのが何とも風情があったね。お店の飲みシーンで店員さんが一人一品ルールを告げてくるのがリアル。「きど藤」を調べたら高円寺の人気店で、飲兵衛として機会があったらぜひ行ってみたい。

古谷が今日子と別れた経緯は古谷のずぼらさが原因の自然消滅らしく、今日子の方にまだ何となく未練が残ってる感じなんだよね。二人が元々の相性の良さを滲ませながら調査を進めていくうちに8ミリフィルムのロケ地である三浦半島に辿り着き、謎の女性にそっくりの美優に偶然出会うという運命的な展開となる。今日子といい美優といい、美優の妹のかおりといい皆な美人で、古谷を取り巻く美女たちの構図がハーレムアニメみたいだった。

古谷が見かけ倒しでなく実際に弾き語りをするシーンの気だるい雰囲気が良くて、ここに地元のおっちゃんがパーカッションで現れるシュールな絵柄もほんわか来た。古谷がインテリ気取った文学青年みたいな喋り方をするミスマッチ感も印象的で、ある種の男の照れ隠しなんだろうね。彼が今日子からホテルに誘われても据え膳を食わぬ頑なさを示してたのが、最後にやっぱり男の方から行くのがグッと来た。調査が進むうちにダブル不倫の事実が浮かび上がり、更に今日子の母が複数の芸術家と関係を持ってたらしいことが分かるんだけど、不思議と穢らわしさが感じられない。これは芸術家の創作の狂気がもたらす多情であり、恋に燃えるからこそ狂わずにいられるということなのかもしれない。
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