ひろぽん

夜明けのすべてのひろぽんのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢と、パニック障害を抱える同僚の山添。社会に適合できなかった2人が転職したことにより、会社の同僚として同じ職場で働くことになる。職場の人たちの理解に支えられながら、2人は友達でも恋人でもなく、同志のような特別な気持ちが芽生えはじめていく。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになり、互いに支え合っていく2人の日情を描いた物語。


藤沢はPMSのせいで生理前になるとイライラが抑えられなくなり、日常の些細なことで怒りを爆発させてしまう。山添の炭酸水のペットボトルを開ける音や、友人の誕生日の返信が面倒という話を聞かされる事など。そういうごくありふれた日常で感情的になってしまうほど、自分の感情が抑えられなくなる。

山添はパニックで時々発作を起こしてしまったり、美容室に行けず髪が切れない、電車にも乗れない、何を食べても美味しく感じないなど、パニック障害による日常への支障をきたすような症状と戦う毎日。様々なことを諦め、やる気も感じられず、生きがいも生きる気力も失いかけ絶望しているように見える。

そんな苦しみを抱えた2人の苦悩が前半に描かれ、社会で理解されない生きづらさが伝わってきて観ていて悲しい気持ちになった。それとは打って変わって後半は、人と人とが互いに支え合い、助け合うことで生きていけるんだという温かい日常が描かれることでホッコリした前向きな気持ちになる。


「お互いに頑張ろう」と声をかける藤沢に対して、「僕とあなたは違うと思います」と答える山添。「病気にもランクがあるんだね」と返す藤沢の会話から分かるように、病を抱えた者同士でもお互いの辛さは理解しきれない。結局のところ本人の苦しみは他人には分からない。

だからこそ、他人に理解できない苦しみを抱えているという事は共通しているから、相手に寄り添おうという気持ちが湧いてくる。藤沢はパニック障害について、山添はPMSについて調べ、相手のことを理解し寄り添おうとする2人の思いやりがとても素敵だった。

お互いに相手を助けていこうとする2人の絶妙な関係が微笑ましく温かい気持ちにさせられた。

出会いは最悪だったのに、藤沢が山添の髪を切ろうとするシーンから2人の距離が縮まっていき、関係性が進展していくシーンが本当に良かった。

山添の家に気軽に行って、ポテチの残りを口をつけて全部食べて帰ろうとする男女の絶妙な距離感の関係性がめちゃくちゃ良い。

安易に恋愛に発展させて乗り越えようとしない点が本当に素晴らしいと思った。男女の友情は成立しないと唱える山添だったが、何だかんだで男女の友情が成立している構成が面白い。

移動式プラネタリウムでの上白石萌音の心が癒されるナレーションと話す内容は心にグッとくるものがあって感動する。何より、山添の上司である辻本が、症状が改善傾向にある山添から熱意のあるプラネタリウムの話を聞かされ涙を流すシーンが何よりも感動的だった。

心に病を抱えた2人を受け入れた栗田科学の人たち全員が、文句も言わず温かく見守り、理解のある人たちで素敵すぎる。周りの人たちに恵まれている。


物事は必ずいい方向へと向かう。
夜明けを待つ2人の人生に幸あれ


自然光の美しさや、富士山を背景とした景色がとても綺麗で心が癒される。
原作とは少し展開が違うらしいが、PMSやパニック障害について知れた事で勉強になる作品だった。自分の周囲にこういった問題を抱える人がいないから、もしいつか出会うことになったら栗田科学の人たちのように接したいなと思う。

全ては明かされないが、登場人物全員が何かしらの悲しい辛い思いを抱えているんだなと感じた。

こういった作品に出会えて本当に良かった。邦画の良さが最大限に詰まっている。

松村北斗もただのアイドルではないくらい役者として上手だし、上白石萌音も自然な演技が素晴らしかった。



夜明け前が一番暗い。
ひろぽん

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