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コヴェナント/約束の救出のひこくろのレビュー・感想・評価

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
4.4
ガイ・リッチーのらしい部分と、らしくない部分が、見事に融合した戦争映画だと思った。

前半はアメリカ人のジョンとアフガニスタン人のアーメッドのバディが生き残りをかける脱出劇。後半はタリバンに追われ隠れ住む相棒アーメッドをジョンが単身で助けに向かう救出劇。
どちらもスリルに満ち溢れているし、ガイ・リッチーらしいケレン味もふんだんにある。
でも、ただそれだけの映画には決してなっていない。
根っこの部分に、アフガニスタン紛争に対する強い思いがあるからだ。

現地では誰が裏切るかがまるでわからない。
信用していたはずの仲間でさえ、タリバンに人質を取られ、簡単に裏切ったりする。
市民とて例外ではない。誰がタリバンかわからないなか、米軍の疑心暗鬼は募る。
これがまず大前提になっている。
そして、戦争の実態。

戦争とは本当に単純に人の殺し合いなんだということを、映画はこれでもかと伝えてくる。
そこには正義も悪も、もっと言えば憎悪ですら入る余地がない。
殺されないために、相手を殺す。
米軍もタリバンもただそれだけなのだ。
敵も味方もなく、本当に呆気なく目の前で次々と人が殺されていく。

だから、単純にタリバンが怖い、というふうにはならない。
タリバンも米軍も、同等に怖いし、狂っているように見える。
その上で進む物語は、だからこそ、単に恐怖の対象から逃げる話にはなっていない。
戦争をただの舞台装置にしていない。
これは、ガイ・リッチーの作品としては珍しいような気がした。

戦争をきちんと戦争として描く。
と同時に、物語的な面白さをちゃんと抑えているのが上手い。
特に、後半のジョンの決意と行動は、熱いを越えて胸を打つ。
ここにあるのは、友情で片づけるにはあまりにも重い、絆で、ジョンの「呪いだ」という台詞がすべてを表していた。

らしいにも、らしくないにも、どちらにも偏ることなく、非常に繊細なバランスで一本の映画としてまとめあげてみせた。
ガイ・リッチーの新境地と言っても過言ではない。
面白かった。
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