もしもあのタイミングで選ばなかった人生を選んでいたとしたら…。
それを想像はしても、無邪気に選択し直せるようなメンタリティは、多くの人は持ち合わせていない。
だからこそ、人々は映画に自分の人生を重ねて、選ばなかった人生をあれこれ思い描いたり、選んでいる今の人生を改めてそっと肯定したりするのだと思う。
この映画は、そうした私たちの心の動きにとても近い形でストーリーが展開していく。
ぶっちゃけて言うと、この映画では、劇的なことは何も起きない。
というより、登場人物たちが何も起こさない。
けれど、意図的に何も起こさないという大人の振る舞いが、観ているこちらに、こんなにも豊かな思いを与えてくれるのかと気付かされた。
ラストシーンがいい。
永遠に思えるような、もどかしいくらい短いような…。
セリフも、彼らの動きもシンプルだが、足りないものは一切なく、しみじみと深い余韻を残す。
それぞれの街の美しい風景にも心惹かれる一作だった。