シレーニ

タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスターのシレーニのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

物語 10点
配役 10点
演出 10点
映像 10点
音楽 10点
---合計50点(満点)---

あらすじは知っていたが、鑑賞前に抱いていた印象とは大きく違った。豪華客船の沈没による悲恋を感動的に、しっとりと描いた話を予想していたが、実際は主役二人以外も含めた人間ドラマで、引き裂かれた恋とジャックの死への悲しみに心が沈むより、ジャックとローズの愛と生き様に勇気付けられる、美しくて力強い物語だった。

貧しさを卑下することなく、誰に対しても誠実に言葉を紡ぎ、自分の幸せを誇りに思っていたジャック。これはわたしが一番思い違いをしていたところだが、彼はタイタニック号沈没後も決して諦めず、ローズと共に生還しようと必死でもがいていた。しかしローズを乗せた扉?に自分まで乗ったら重さに耐えられないと判断した瞬間に、自らの生をあっさりと捨てた。人生をカードゲームに例え、贈り物であると語っていた彼は、その結末を悟っても決して悲観することも絶望することもなく、むしろ満足して、最後まで彼らしい真摯さで、愛の言葉をローズに遺した。なんという深い愛と勇気かと心震わされた。というか人格者過ぎてどうしようかと。一方、鳥籠の中の令嬢だったローズは、ジャックと出逢って生きる喜びを知り、桁違いに強くなった。(助けようとしてくれた善意の男性を殴り飛ばして鈍器を持ち出した時は流石にびっくりしたが……。)彼女もまた、ジャックと共に生き残ろうと必死にもがいた。それは叶わなかったが、彼の死を嘆きつつも彼との約束を守り、その後の人生を、心に彼を抱いて幸福に生き抜いた。ありがちな「彼は私の心の中で生き続けている」という言葉も、彼女が言うと説得力がまるで違う。彼女の逞しさにもまた、わたしは力を貰った。

モラハラ男かつDV男で、最後は沈没仕掛けている中ジャックとローズを追い回して銃殺しようとしたキャル。狂っていたし終始嫌な奴だったが、彼もローズを愛していたことは間違いない。そんな彼は姑息な手を使って生き延びた。しかしローズの話によれば、17年後の世界恐慌で自殺したという。
彼の生き方はジャックと正反対だった。そして地位や名声を失ったことを理由に死んだ彼の最期が語られたことで、ジャックの生き方、人生は贈り物であるという彼の言葉が改めて心に響いた。

二人を取り巻く人々にも、それぞれにドラマがあり「その時」を必死に生きていた。沈没に至るまでの彼らの生き様が画面から十分伝わってきたし、氷山衝突後、自らの運命に対してそれぞれに向き合った彼らのドラマに胸を打たれた。そこに史実でもあるタイタニック号に対する誠実さを感じたし、物語に厚みを与えていた。
"碧洋のハート"を追い求めていたトレジャーハンター達がローズの話を聞いて涙を流し「何も分かっていなかった」と言うのもベタといえばベタな展開だが、このようなドラマを見せられたらそれもそのはずと納得である。

現代と比べても遜色ない映像技術故に沈没の様子がリアルで怖かったが、それ故に緊迫感が伝わってきた。音楽もよく調和していて、特に船出の時に流れる高揚感溢れる劇伴は、結末が分かっているのについ心躍ってしまう。また主題歌の使い方、アレンジのハマり方が素晴らしい。いよいよここまでというところで弦楽隊が讃美歌を演奏し始めた辺りは過呼吸になり掛けた。ジャックの台詞もそうだが(この男、名言か伏線しか言わない)、この作品は伏線の張り方が実に見事だった。台詞の取捨選択も凄く良くて、説明的な台詞を言わせる場合はごく簡潔ながら正しく状況を伝え、敢えて台詞を言わせず役者の表情や動きだけで説明する場合との使い分けが上手かった。
195分の超長尺に一切の無駄が無い。描くべきこと、描きたいこと、全てがしっかり詰まっていた。悲恋だけど、悲劇だけど、そのメッセージ性故に後味は決して悪くないし、こういう別れ方をしてしまった場合、遺された方に生涯独身を求めてしまいがちな私だが、この作品についてはローズがその後新しい幸せを見付けてくれて良かったと素直に思う。彼女が幸せな生を全うしたからこそ、ベタなラストシーンが本作の最後を飾るに相応しい美しさに昇華した。

あらすじも結末も知っていた。でも私は、それこそトレジャーハンター達と同様に何も知らなかった。
こんなにも心を動かされる映画には、後にも先にももう出逢えないと思う。アカデミー賞総なめも当然の、名作の名に相応しい、傑作だ。


※2023年2月19日に初鑑賞して感動し、終映日である2月23日に再鑑賞した。その勢いでBlu-rayも購入したが、是非また映画館で観たい。
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