ひこくろ

君たちはどう生きるかのひこくろのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5
(かなりの長文です。すみません、今回ばかりは許してください)

宮崎駿って人はこれまでずっと一貫して「自分のやりたいこと」をアニメでやってきたんだな、とあらためて思わされるような映画だった。

たぶん、これを観て「宮崎駿の集大成」だと感じる人も多いと思う。
同じ理由で「これまでやってきたことを全部盛り込んだ映画」だと感じる人もいるはずだ。
実際、映画にはそういう要素がとても多い。
観ていて過去のジブリ作品を彷彿とさせられるシーンが本当にあちこちに出てくる。

でも、僕はそれを「過去をすべて詰め込んだ作品」とは感じなかった。
むしろ、宮崎駿がやりたいことを全部やってみせた結果、これまでにやってきたことの集大成のように見える映画になったんだろうと思った。

例えばアオサギというキャラクター。
減らず口ばかり叩き、時に敵対しながらも、なんだかんだで面倒を見てくれるようなこいつは、もののけ姫の「ジコ坊」を思わせる。
どちらも小林薫が声をあててるから、宮崎駿にもそういう気持ちは強かったんだろう。
ただ、じゃあジコ坊の焼き直しなのか、と言うとそうではない。
このタイプのキャラはずっと描かれてきていたからだ。
「千と千尋」の青蛙、「ハウル」のカルシファー、「紅の豚」のドナルド・カーチス、もっと元を辿れば「ナウシカ」のクロトワだってそうだろう。
これは宮崎駿がずっと描き続けてきたキャラクターなのだ。

格好よくて頼りになるお姉さん的存在というのもそう。
この映画なら「キリコ」、千と千尋なら「リン」、魔女の宅急便の「おソノ」、カリオストロの城の「不二子」、ナウシカの「クシャナ」もそうだ。

こんな感じでこの映画に出てくる要素はすべて過去の作品を思わされる。
少年と少女が出会う物語も、異世界へ繋がる扉も、わらわらと出てくる小さな妖精も、何もかもが宮崎駿が描きたいものだったのだと思わされる。
それが、隠すことも誤魔化すこともなしに、この映画ではストレートに出てくるから余計にその思いは強くなる。

「文芸性がない」とか「子供向けに過ぎない」とか、宮崎駿にはこれまでいろいろと批判されてきた歴史がある。
その都度、彼は彼なりに対応して、作品ごとに答えを出してきた。
でも、やっぱり描きたかったものは、そういうのとは別で、ずっと同じであり続けたんだと思った。

ただ、描きたい要素を全部ぶち込もうとすれば、当然、物語とか世界観的には破綻をきたす。
少年の冒険譚という軸を据えたことでギリギリ保たれているようには見えるものの、この映画にも穴は多い。
「なんで知り合ったばかりの相手が大切な人になってるの?」「なんの段階もなく、義母と和解するの、変じゃない」「そもそもこの塔のなかの世界って何」「世界を作るって意味わからない」
とか、いろいろと言おうと思えばいくらでも言える。
同じ理由で、これまでのジブリ作品と関係なく一本の映画として観た時の評価も微妙だろう。

それでも、宮崎駿がやりたいことをやりきった作品として観るならば、僕は満点をあげたい。
ホルス、パンダ、コナン、カリオストロ、ナウシカ、ラピュタ、トトロ、魔女の宅急便、紅の豚、耳をすませば、もののけ姫、千と千尋、ハウル、ポニョ、アリエッティ、コクリコ坂、風立ちぬ。
どの作品のファンでも、この映画に何らかの共通項が見出せるはずだ。
そして、それこそが宮崎駿がやりたくて、ずっとやってきたことなのだ。

最後にアニメーションに関して。
いろんなアニメを見ると、余計に宮崎駿のアニメーションが独特な個性を持ったアニメーションなんだと気づかされる。
しかも、彼は表現に関してとことん貪欲で、圧倒的な個性の上に、さらに新しい表現を模索してやまない。
この映画でも目を見張るようなシーンがいくつもあった。
やりたいことは変わらない。でも、アニメ表現に関してはどこまでも追及する姿勢を崩さない。
この頑固さと柔軟さの両立こそ、宮崎駿の魅力なのかもしれないな、と感じた。

一本の映画として観るつもりの人にはあまりおススメはできないけれど、ジブリ好きな人なら観たほうがいい、と自信を持って言える。
そんな映画だった。
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