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クリード 過去の逆襲のBOBのレビュー・感想・評価

クリード 過去の逆襲(2023年製作の映画)
3.5
マイケル・B・ジョーダンが監督・主演を務めた、『クリード』シリーズ第3弾。

"The higher you get, the harder it gets."

ロッキーサーガ、新章へ突入。これからの主役はアドニス・クリードだと高らかに宣言するかのような作品。大絶賛というわけでは決してなく、言いたいことも沢山あるが、親世代の物語ときっぱり決別し、次世代の物語が語られ始めたことは喜ばしい。マイケル・B・ジョーダンは上々の映画監督デビューを果たしたと思う。

鑑賞前に一番不安視していたのは、スタローン不在の影響だった。確かに、ロッキー・バルボアの魂というか、何か大きなものが欠落している気は最後まで拭えなかったが、過去2作をかけてアドニスのキャラクター像がちゃんと築き上げられていたので、それほど苦労することなく、作品を楽しむことができた。

ロサンゼルスにあるアフリカ系コミュニティの物語へと完全にシフトした。アメリカンドリームを掴んだアドニスが、忘れ去りたいが忘れられない過去と向き合い、己と戦う。デイムは、アドニスのダークサイド的な写し鏡であり、アドニスがロッキーに出会っていなかった世界線の姿に思えた。また、過去のトラウマを妻にさえなかなか告げられないアドニスは、"父、夫、男たるもの強くなければならぬ"といったアンコンシャス・バイアスに悩む男でもあると思った。

本作の白眉は、ロッキーサーガ史上屈指の魅力的なヴィラン、"ダイヤモンド"デイミアン・アンダーソンだろう。子供時代を共に過ごしたアドニスの兄貴分的な存在であり、『ロッキー3』に登場したグラバー・ラングを想わせるハングリー精神の塊のようなアンダードッグ。筋骨隆々の肉体、ふてぶてしい態度、表には出さないが腹に大きな一物を抱えていそうな不気味さなど、ジョナサン・メイヤーズが放つ威圧的な存在感に圧倒された。(初登場シーンのフーディー&ビーニー姿は、"Beast Mode"ことマーショーン・リンチ🏈に見えて仕方がなかった。)

新しい映像スタイルは、新鮮で興味深かった一方、戸惑いもあった。特徴的だったのは、夜のシーンのグレーディングや、『レイジング・ブル』やジャパニーズアニメから影響を受けているであろう、ファンタジー演出やスローモーションを混じえたボクシングシーン。マイケル・B・ジョーダンのやりたいことは理解できたし、徐々に見慣れてはいったものの、ややスタイリッシュすぎる気もしたし、あまりハマってない気もした。

一番残念だったのは、クライマックスが熱くなれなかったこと。アドニスが圧倒的な勝ち組ゆえ、再び戦うことを決意する動機は弱いし、デイムに関しても、めっちゃ良い奴からアドニスをぶん殴って、試合して、仲直りするまでの流れがかなり早急に感じられた。気持ちが追い付かなかった。

3年ぶりの復帰戦がタイトルマッチだということもかなり引っ掛かった。こればかりは映画の中のご愛嬌ということなのだろうが、これが気になってしまうということは、映画の世界に完全に入り込めていたわけではなかったことの裏返しではないかと思う。

ドラゴを軽視しすぎでは?友情出演的なノリで、アドニスのトレーニングパートナーを務めるだけなのは勿体ない。ロッキー不在の今、もっと大事にすべきキャラだと思う。

劇場鑑賞したほぼ全ての人が戸惑っただろうが、エンドロール後に流れた短編アニメーション『クリード Shinjidai』は、一体何だったのだろう。本編の内容が全て吹き飛んでしまうほど呆気にとられた。

マイケル・B・ジョーダンがモデルを務めるRalph laurenの大きな看板が出てきた時は思わず吹き出してしまった。

357(公開一週目、ほぼ貸し切り状態のレイトショー。満悦感や没入感もあったが、『クリード(ロッキー)』シリーズってあまり人気ないのかと寂しくもあった。)
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