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梟ーフクロウーのRenのレビュー・感想・評価

梟ーフクロウー(2022年製作の映画)
4.0
【ソヒョン世子毒殺事件】1645年、清での8年間に及ぶ人質生活を終えて朝鮮に帰国したソヒョン世子は、帰国後わずか2ヶ月で亡くなった。身体中が黒ずみ、耳・目・口・鼻など7つの穴から鮮血が流れ、毒殺を疑われるのも当然だった。この事件は韓国史最大の謎の一つとして語り継がれている。

爆裂に面白い....!謎多き史実に「ソヒョン殺害の現場を目撃した唯一の証人は盲目の宮廷鍼師」という大胆な脚色(この要素は全て創作)を施した、暗闇ノンストップサスペンス。歴史ものに興味が無くても余裕でOK。とにかくハラハラしたい人は観てほしい。

ジャケットが鋭利でおどろおどろしいホラーのようなルックだけど、その実は『見えない目撃者』のような直球のサスペンス。何を見て/何が見えないのか。とてもベタな倒叙でありつつも、時代背景を踏まえた主従関係と光源の少ない夜の闇がスリルを加速せていく。

徹頭徹尾エンターテイメントとしてのサービス精神を忘れていない。たるい会話シーン、予習必須の物語背景、そういったものを丁寧に濾して単体で楽しませることに注力している。ノンポリ仕草すぎて脳天気な見方かなとも思うが、そこを大切にしている作品であることは間違い無いし、そこを大切にしていない映画は推せないのでこの感覚は大切にしたい。
監督曰く「まず盲目の目撃者という設定だけがあり、それに合う事件を探していたら結果的に歴史ものになった」とのこと。そっちが先なのかという意外性。やっぱりスタートは、面白いサスペンスがやりたい、だったのだろう。

なぜ主人公を鍼師に設定したのか?というエンタメ的建て付けの理由が明かされる瞬間、久々に物語的な快楽を覚えた。この瞬間さらに映画がスピードに乗ったのが分かる。こういう快感が何度かある。タイトルの意味が分かる瞬間もそう。

・事実として在ること・それを見ること・それを伝えること、と3段階があって、各ステップ間に、盲人(=弱者)と権力に近い側の人間の溝が存在する。圧倒的な権力勾配の世界では事実すら消される。だったら弱者は口を閉ざし目も閉じる。なぜなら沈黙は金だから。それって現代もじゃん。現代の日本じゃん。周囲のバイアスで証言者が透明化される現代の日本じゃん。ジャニーズじゃん。吉本じゃん。
そしてそんなカスみたいな世界は、目を開き口を開いた勇敢な弱者が変える。ただ正しくあろうと奮い立つ彼らは微力かもしれないがそうするしかないのだ。割を食うのは弱者だ。その通り権力批判の映画だ。

鍼、「盲人」、権力批判。相互に絡み合って最後まで飽きさせない。心がズタズタになる胸糞サスペンスというよりは、暗所と緩急とアイデアで惹く緊迫感のサスペンスなのでそこまで強張らずリラックスして鑑賞してください。あとは自己責任です。暗闇が肝の作品なので、配信スルーを待つよりは映画館の没入空間がおすすめ。

その他、
○ 歴史に興味無くてもOKだし事前知識もそんなに要らないけど、このレビュー冒頭の知識と、当時の清の貿易政策(と周辺国との支配関係)だけざっくり知っておくといいかも。
○ 物語のほとんどが宮廷内での出来事。人物たちの動線、かなり細かく練られていると思うので俯瞰ショットで見てみたい。
○ お久しぶりのパク・ミョンフン。今作ではコメディリリーフ的に動いてくれて、クセのある脇役が似合うなぁ。



《⚠️以下、微ネタバレ⚠️》










脚の怪我の件、ちゃんと詰めればすぐギョンス追い詰められてたと思うぞ....?甘くないか?そういうネジの緩いところはある。エンタメなので特に気にしていないけど。
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