ぶみ

aftersun/アフターサンのぶみのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
「残すから
  私の小さな
   心のカメラに」

シャーロット・ウェルズ監督、脚本、ポール・メスカル、フランキー・コリオ主演によるイギリス、アメリカ製作のドラマ。
離れて暮らす父と過ごした20年前の夏休みを回想する主人公の姿を描く。
主人公となる女性ソフィの11歳当時をコリオ、若き父カラムをメスカルが演じているほか、当時のカラムと同じ年齢になった今のソフィとしてセリア・ロールソン・ホールが登場。
物語は、11歳のソフィが、トルコのリゾート地でカラムとともに過ごしたひと夏を、お互いに撮り合ったビデオカメラの映像で回想するというスタイルで展開、そのため、描かれる光景の殆どは、キラキラ輝く太陽の下、リゾートを楽しむ当時の二人の姿が中心となるのだが、フラッシュバックのようなシーンが挿入されたり、カラムの心から楽しんではいないような表情が見られたりと、時折、眩しい碧き海とは対照的な、不穏感募るカットが入ってくるため、一体、二人に何が起こっているのか、考えさせられることに。
そもそも、旅行の目的や、父娘の関係性等々、人物の背景に対する説明的な台詞が一切廃されており、前述のカットも含め、観る側に委ねられる部分が多いのだが、以前観た伊藤ちひろ監督『サイド バイ サイド 隣にいる人』のように行間が空きすぎているわけでもない、絶妙な塩梅となっている。
何より、私にも娘がいるため、どうしてもカラム視点になってしまうのだが、父親にとっては何気ない行動でも、子はしっかり見ているものであり、父親が少しでも不安そうな背中を見せると、それを敏感に子は感じ取ることを身をもって知っているので、そんな父娘の微妙な空気感の再現度は中々のもの。
自分が子どもの頃、親が何を思っていたのかなんて知る由もないし、考えたこともないが、親になってからこそわかる感情の欠片が其処彼処に散りばめられており、辿り着いたラストカットに一瞬思考が停止した後に心を抉られるとともに、自分の中のあの夏の記憶が、波のように押し寄せてくる良作。

太陽が足りない。
ぶみ

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