まーしー

ちひろさんのまーしーのレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
3.5
お弁当屋で働く元風俗嬢のちひろさん。誰とも分け隔てなく話す彼女は、街の人気者。

観ている私も、有村架純が演じるちひろさんの、天真爛漫な言動に惹き込まれた。
ホームレスの高齢者をお風呂に入れたり、不登校の女子高生に話しかけたり。
母子家庭で育つイタズラな小学生や、息の詰まるような生活を送る女子高生にも、彼女は壁を作らない。
まさに老若男女から愛される存在。

鑑賞を始めた時、そんなちひろさんを羨ましいと思った。それは、人見知りの私には真似できないから。
でも、彼女にも順風満帆ではない過去があったことが伺える展開に、羨ましいと思った自分を恥じた。

もっとも、ちひろさんの周辺情報は断片的にしか明らかにされない。
なぜ風俗の仕事をしていたのか。家族はどこで何をしているのか。全て曖昧なまま。
ただ、複雑な事情がありそうなことは確か。

ちひろさんは、単に屈託ない笑顔を振りまいているだけではないのだろう。
もしかしたら、自分の内に潜む闇を照らすべく、周囲の人に明るく接し、元気を貰っていたのかも知れない。
そして、周囲の人が明るくなったら、また新たな場所、新たな人間関係を探し求めるのかも知れない。

このように、あくまで観客の想像に委ねるストーリー。
人間の内面を明らかにすることなく、日常に起こる出来事を淡々と描いているだけ。
その描き方にも工夫がなされていて、ちひろさんの明るい話題は昼に、暗い話題は夜に描かれていることが多かった。
ポップな雰囲気とダークな雰囲気を共存させる、この演出が憎い。

モヤっとした部分も残るかも知れない。でも、有村架純の立ち振る舞いに心温まること間違いなし。
興味のある方はぜひ。