「花様年華」を観て、個人的にウォン・カーウァイ熱が急上昇。
という事で、「恋する惑星」。
当時、密かに流行っていたのは知っている。お洒落に敏感な大学生なら決まって「恋する惑星」を観るのが定説だったのだ。一度は観たと思っていたけど、錯覚だったのかと思う程に全く覚えていなかった。
2つの恋物語。
「その時、彼女との距離は0.5㍉。
—— 57時間後、僕は彼女に恋をした」
失恋した刑事のモウ(金城武)は、逃亡中のドラッグ・ディーラーの女(ブリジット・リン)と出会い、恋に落ちる。
香港の雑踏の中、一際目立つ金髪とサングラスの女性。静止画と動画が繋ぎ合わされた様な粗い映像が、裏社会で生きる女性の暮らしぶりを見事に物語っている。
広東語、北京語、日本語、英語をそつなくこなす金城武のスマートさよ。
未練が残る元恋人との復縁の願掛けとして、賞味期限間際のパイン缶を頬張るモウ。嗚呼、若いってどうしてこうもどうしようもないのだろう。
モウはもう1人の女性とすれ違う。
「その時、彼女との距離は0.1㍉。
—— 6時間後、彼女は別の男に恋をした。」
とある飲食店で働き始めたフェイ(フェイ・ウォン)は、店の常連の刑事633号(トニー・レオン)と出会い、恋に落ちる。彼はCAの恋人と別れたばかりだった。
前編と後編とがリンクする訳でもなく、2篇のオムニバスと言っていい。後編のトニー・レオンとフェイ・ウォンのパートの方が尺も長く親近感が湧くので、前篇が添え物のようになってしまったのは些か残念。
ファッションやヘアスタイル(ベリショのフェイ・ウォンのキュートさよ)、街並みの至る所がお洒落で、スタイリッシュ。加えて音楽のセンスは抜群。荒削りではあるが、ウォン・カーウァイのセンスが随所に光る。
ママス&パパスの
「夢のカリフォルニア」
フェイウォンの
「夢中人」
(クランベリーズ「Dreams」のカバー)
ダイナ・ワシントン
「縁は異なもの」
これらの楽曲を聴くと、90年代のあの頃にタイムスリップするかのよう。堪らない懐かしさが込み上げる。
にしてもだ。フェイが刑事633号の部屋に勝手に出入りし、模様替えに勤しむ姿は正直怖いし、気付かないのもどうかしている。それでも、そんな些細な事は飲み込んでしまえる程に、中国返還前の香港で繰り広げられるふわふわした恋模様は、不思議とノスタルジックで小気味良い。
長い軌道の中で、極限まで近付きほんの少しすれ違う男女がまた離れていく…。
「恋する惑星」という邦題は珍しく俊逸。