KnightsofOdessa

ナナのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ナナ(2022年製作の映画)
2.0
[1960年代インドネシアにおけるシスターフッド時代劇] 40点

2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。主人公ナナは姉や赤子と共に森の中を歩いていた。姉妹は彼女らを手に入れんとする何者かから逃れようとしているのだ。姉妹の父親は二人を逃がしたことで殺されていて…と、ここでナナは目覚める。20年近く経っても、逃亡時代の悪夢を見るのだ。父や夫は殺された、姉は生き延びたが、赤子はその後亡くなってしまった。そんな彼女を受け入れてくれたのが、今の夫で大農場主のドルガだ。20歳くらい年上だが、ナナを大切にしてくれた恩人だった。今では彼との間には新たに四人の子供もできていた。

時代はスハルトによるクーデター前後の1960年代、郊外のプチブルも政情を無視できないような状況のはずで、進歩的な女性は共産主義者だと陰口を叩かれるような時代なのだが、親戚の小言が増えるだけで、ナナたちが何らかの事件に巻き込まれることはない。この"時代のファッション化"というか"時代の漂白"というかは『この世界に残されて』でも感じたのだが、アンディニはコスチュームや備品などの懐古趣味的なノリでしか時代を描けていない。友人と話していて、アンディニがガリン・ヌグロホの娘という芸能一家出身だから、そういった時代感とか共産党員云々とか肉屋の仕事とかよく分かんないし分かる気もないのではと指摘されて納得してしまった(違う可能性もあるがヌルいのは事実)。

ナナは現夫を通じて進歩的な考えを持つ肉屋の女主人イノと知り合う。彼女は周りから共産党員だと陰口を叩かれているが、上記の通りフワッとしか描けていないので、ある種のMPDG的存在であり、定義的には男を導くミラクルな女という存在を迷える女性にぶつけることでシスターフッド時代劇としている。しかし、MPDGという存在のあざとさは消せず、寧ろ映画祭に向けた傾向と対策みたいなあざとさが上乗せされて、なんか白々しく見えてしまった。ちなみに、イノさんは現夫の愛人ぽいが、現夫が共産党?の活動資金をイノさんを通じて流してた説を聴いて納得した。危うく女性解放の導き手をド畜生にするところだった。

カミラ・アンディニの作品は今回が二回目だが、全然作風が違うことに驚かされる。今回は夢のような描写(家の中に牛、森の中で焼き殺されそうな元夫に出会うなど)はそのあとに毎回"悪夢から目覚める"という描写を入れる謎の丁寧さがあったり、イノに"自由って何?"と聴くなどのクサすぎる台詞も方々で登場し、髪を下ろす=秘密がなくなったとかモチーフの単純すぎて奥行きが感じられない。残念。色んな人に勧めた罪悪感で死にそうです。
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