daiyuuki

生きる LIVINGのdaiyuukiのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.7
1953年。第二次世界大戦後、いまだ復興途上のロンドン。公務員のウィリアムズ(ビル・ナイ)は、今日も同じ列車の同じ車両で通勤する。
ピン・ストライプの背広に身を包み、山高帽を目深に被ったいわゆる“お堅い”英国紳士だ。
役所の市民課に勤める彼は、部下に煙たがられながら事務処理に追われる毎日。
家では孤独を感じ、自分の人生を空虚で無意味なものだと感じていた。
そんなある日、彼は医者から癌であることを宣告され、余命半年であることを知る――。
彼は歯車でしかなかった日々に別れを告げ、自分の人生を見つめ直し始める。
手遅れになる前に、充実した人生を手に入れようと。
仕事を放棄し、海辺のリゾートで酒を飲みバカ騒ぎをしてみるが、なんだかしっくりこない。
病魔は、彼の身体を蝕んでいく……。
ロンドンに戻った彼は、かつて彼の下で働いていたマーガレット(エイミー・ルー・ウッド)に再会する。
今の彼女は、社会で自分の力を試そうとバイタリティに溢れていた。
そんな彼女に惹かれ、ささやかな時間を過ごすうちに、彼はまるで啓示を受けたかのように新しい一歩を踏み出すことを決意。
その一歩は、やがて無関心だったまわりの人々をも変えることになる。
黒澤明が1952年に監督し、キネマ旬報ベスト・テン1位に輝いた「生きる」を原作に、ノーベル賞作家カズオ・イシグロが、舞台を第二次世界大戦後のイギリスに移して新たに脚本を書いたヒューマン・ムービー。
脚本のカズオ・イシグロや主演のビル・ナイや監督やスタッフは、黒澤明監督のオリジナル版に最大限にリスペクトしたこともあり、主人公のウィリアムズがガンを医師に宣告され、同僚と親しくせずに、市民からの複数の課にわたる要望を検討中の棚に上げて事なかれ主義だった生き方をバイタリティに溢れるマーガレットを見習って変える為に、たらい回しにされていた公園建設の件の実現に奮闘するストーリーも、公務員の事なかれ主義を打破することや生き方を変わり映えのない日々の中で怠惰さに埋もれそうになりながら変えることの難しさのテーマ性も変わらないが、楽しみや夢を考えたことがない事なかれ主義のお堅いイギリス紳士から仕事に情熱を傾けようと残りの命を燃やす生き方を変えるように奮闘するまでの葛藤や心情の変化までウィリアムズを演じるビル・ナイの折り目正しい演技、ウィリアムズとマーガレットやウィリアムズと部下のピーターの市役所での地位を超えた交流やウィリアムズと市民の仄かな人間味の丁寧なヒューマンドラマ、仕事など単調な毎日の繰り返しの中で初心や夢や信念や何気ないことの喜びを忘れがちな時に大事なことを思い出させてくれる静かな感動を呼ぶ傑作ヒューマンドラマ映画。
daiyuuki

daiyuuki