ブルームーン男爵

ラスト・ツァーリ: ロマノフ家の終焉のブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

4.8
ロシア帝国を300年に渡り統治したロマノフ王朝。ニコライ2世皇帝一家の悲惨な結末は有名である。ニコライ2世即位の前後からロシアは徐々に衰退してゆき、息子の血友病問題もあってラスプーチンの皇室の出入りを許してしまい醜聞にまみれていく。徐々にロマノフ皇室は傾き、国内には社会主義革命が広まっていき、世界大戦の混乱の中で皇帝は退位させられ、悲劇へと向かっていく。この悲劇から生まれたのがアナスタシア伝説だが、結局、最近になってニコライ2世皇帝一家の遺骨は全て発見されている。

再現ドラマの中に学者の解説が組み込まれていて客観的に追っていけるのでとても良い構成。ニコライ2世の苦悩や迷走も理解できるが、しかし民衆のロマノフ王朝への怒りも当然のもので、政治は難しいなと思う。

アレクサンドラ皇后はドイツ系だったり、欧州の姻戚関係だったりが垣間見えて面白い。ニコライ2世の母のマリアはデンマーク王の王女であり、姉のアレクサンドラは英国王の皇后である(アレクサンドラの息子が英国王ジョージ5世であり、それゆえニコライ2世と従兄関係にある)。このマリアは革命後にクリミアから脱出し英国に渡り、その後、甥のデンマーク王クリスチャン10世を頼ってデンマークに渡っている。この英国への脱出の際にはラスプーチンを暗殺したロシア貴族フェリックス・ユスポフも脱出に成功しており、パリで余生を過ごしたという。

本作で知ったのだがやはりニコライ2世一家だけではなく、ロマノフ家の他の親族も悲劇的な最期だったようだ。本作でも出てくるアレクサンドル2世の五男の大公妃エリザヴェータは、夫の大公が暗殺されると修道院を設立し修道女となるが、革命後には逮捕され、最期は他のロマノフ一族と共に廃坑へ突き落され、手榴弾を投げ込まれて殺害されたという。

ロマノフ王朝の滅亡をとても分かりやすく客観的に描写した良い半ドキュメンタリーだった。ちなみに、ロシア帝位請求者の血統は存続しており、マリヤ・ウラジーミロヴナ・ロマノヴァがそれであり、推定相続人はゲオルギー・ミハイロヴィチ・ロマノフである。ゲオルギーは皇太子・ロシア大公等の称号を用いているようだが、あくまでも公的な称号ではなく、自称の域を出ない。

最近のウクライナ問題でもロシア軍の士気の低さが問題となっているが、世界大戦でのロシア軍の様子と似ているなと思った。中央主権で権力者が一方的に命令を下すが、民意はそれに沿わない、完全な片思い。現在のロシアは、ロマノフ王朝の末期に類似しているとも感じられた。