空

愛だと言っての空のレビュー・感想・評価

愛だと言って(2023年製作のドラマ)
3.9
父親の不倫相手にいかにして復讐を成し遂げるかという韓ドラ王道ストーリーかと思いきや全然違った。
それぞれが背負っていた不幸から抜け出し幸せになることがテーマの愛と成長の物語。
最終的に主要キャラクター全員が成長した。

復讐系の韓ドラは相手を徹底的に悪と描いて復讐を全面的に肯定し視聴者を感情移入させるものが多い(というかそれしかみたことがない)なかで、「復讐したとしてその時の嫌な気持ちを一生引きずるだけ」と言い復讐の道を選択しなかった主人公は新鮮。
韓国の脚本家さんにとって、王道復讐系ドラマの型通りの筋書き書くより、そこをあえて外して面白くする方が、遥かに難しいことだと思う。企画も通りにくいだろうし。
なので序盤でこのセリフが出てきた時点で、もうこれだけでこのドラマの意義はあると思った。

セリフが少なくストーリーもゆっくりと進行するぶん映像演出が相当凝っていて、女性演出家らしい繊細で丁寧な画作りに、毎話感動✨
引きの映像が多く、肝心なことをキャラクターには言わせず映像で伝えようとする余白があって、作家さんと演出家さんの呼吸がぴったり。
日本で言ったら野木亜紀子さん×塚原あゆ子さんコンビ想像した。

役者さんの演技もみんな良くて、特にヒロインのウジュ演じたイ・ソンギョンさん、初見の女優さんだったけど、目と声で表現する繊細な感情変化は見事だった。ドンジンが好きだと認識し始める頃からもう可愛くて可愛くて🥰

ただ、そもそもの設定が不倫した母親ではなく何ら落ち度のない息子が復讐相手となっていて、親子とはいえ別の人格をもった別の人間なのに、「許されない愛」というほどのこと?周りの家族もなぜあそこまで反対するのか、ストーリーの核となる設定や展開に違和感があって、完全には感情移入できなかった。
共同体意識の強い韓国で生まれ育ったら、そんな感情も理解できるのかな。

他方で「お前を見て母親を思い出したりしない。お前はお前だ。」という義父の存在もちゃんと用意されていて、
復讐という韓ドラ王道を出発点としていながらも、ステレオタイプを超えたキャラクターやストーリーへの工夫に作家さんの力量を感じた。他の作品も見てみたい。
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