バリー・ジェンキンスの手腕にただただ圧倒された全10話。どこを切り抜いても完璧なショットの連続で眩暈してくる。
南北戦争より前の19世紀アメリカ、黒人奴隷の南部から北部への亡命を手助けしていた組織“地下鉄道”。これは単なる組織の名前であり実際に鉄道があった訳ではないが、「本当に地下に鉄道があったら」という仮定から物語は始まる。この映画的な設定からもう既に強い。
逆光を利用したハレーションの美しいショット、それとは裏腹に醜く映し出される人間像。北部へ自由を求め逃げ出した黒人奴隷のコーラを待ち受けるのはそれぞれの州でそれぞれの白人が提供する主観的な自由。地獄のツアー、一話一話があまりにも重い。
主人公以外の別のキャラクター視点で描かれるエピソードはアスペクト比が変わるというドラマならではの演出も面白かった。各話異なるエンディング曲も印象的で、毎話エンディングが何の曲なのか期待が膨らんだ。EP9の曲はベッタベタな選曲だけどあのラストを表す曲はもうこれしかないよね。
あまりにも残酷な描写ばかりであったためバリー・ジェンキンスは撮影にあたり演者のケアのためにメンタルヘルスカウンセラーを雇っていたという話も興味深い。『Them』や『隔たる世界の2人』が一部からブラックトラウマポルノだと非難されていることからもわかるように、黒人差別の過激な描写は視聴者にトラウマを与えかねない。そしてそれは演者に対しても同じ。
しかし我々は目を背けてはいけない。今もまだどこかで、逃げ出せずにいる彼女がいる。