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四畳半神話大系のnocchiのレビュー・感想・評価

四畳半神話大系(2010年製作のアニメ)
4.0
青い鳥症候群の京大男子大学生のモラトリアムを、独自の世界観たっぷりに描いたTVアニメ。「ありえたはずの大学生活」をいくつも繰り返しては最後に必要だったものにたどり着く。

悪友・小津は、最初は散々な描かれ方をするが、本当は存在しなかったがいたらよかったであろう、綺麗すぎもせず汚すぎもしない側にいてくれるもう一人の自分であり、理想通りの”薔薇色のキャンパスライフ”が送れない理由全てを一手に引き受けてくれる言い訳的存在であったが、主人公が”いつも目の前にぶらさがっていた好機”に手を伸ばす努力をし自らの人生を獲得してからは、小津も恋に勉学に悩む”友人”の一人として分化・昇華され、主人公は遂に、明石さんの隣で、キャラクタの一人として小津に向き合い、下鴨幽水荘の一人の住人として生きていく。

一人で食べるには少し量の多い美味しいカステラ、一人で眠るには十分な広さの四畳半、自身の好奇心を満たす積読された無数の本。自らの人生は一人でも目標を持つことができても、その隣に、ああだこうだと語り合える人がいて、他者に客観的に自身を見つけてもらうことに喜びを見出していけるもの。なぜ孤独が虚しいのかを知り、他者が自分に与えてくれるものの意味と有難さを学べと教える。

特に性行為体験のない拗らせた若者の繊細な葛藤を描いた8〜9話はアホかと言いたくなる濃さだが、当事者諸君は共感の嵐であり胸を抉られる思いであろう。

それまでのパラレルワールドを吸収する10〜11話では、自分がありえないと破り捨ててきたいくつもの選択肢もまた、何も得られなかった自分から見れば輝きに満ちていたことを教え、その光の中にいるうちはその恩恵に気づかない愚かさを説くと共に、主人公が、存在もしない”薔薇色のキャンパスライフ”を受動的に待ち続けることを辞め、それが光り輝いていなかろうが自ら作り出す覚悟を決め、遂には占いババに大枚スられた成果か”もちぐまん”を掴み本懐を遂げ、モラトリアムを終えると共にこの物語が終焉を迎えるところが実に哲学である。
安心しなさい、劇場版では田村くんが君を待っている。

自身を投影したキャラクタを複数登場させ、第一週目では創作に悩み打ちひしがれる壮絶な終わり方をし、リバイバル版の最後で奥さんと結ばれて幸せになる作品を描いた庵野氏を想起させる。本作もまた、きっと、今は幸せになった誰かが振り返った、自らの大学生活だったのではないだろうか、と感じさせる。

などと真面目に書いてしまったがこんな雰囲気は微塵もない。
作中で名言はされないが、世界旅行に出ようかと言い出した師匠に衝撃を受け、つい主人公を飲みに誘ってしまうほどショックを受ける羽貫さんが実に可愛い。
師匠こと樋口氏は、自身の先を行きモラトリアムを実践してくれる圧倒的言い訳であり、ベンチマークであり、それでもそれが自分の意志であるという、主人公からすると達成し得ない憧れであり続けたが、遂に8回生を過ぎてモラトリアムの終了を宣言してしまう。ただの自堕落脛齧り風来坊であるがああも開き直られるとファンができるというのはいつの世も謎であるが、私の通っていた大学にもああいう人はおり、なぜかいつも女性が数人周囲にいた。

とにかくみるべし。
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