ryosukeさんの映画レビュー・感想・評価 - 5ページ目

アネット(2021年製作の映画)

3.7

 コンティニュイティ編集や映像の自然さを放り捨てた、ウェルメイドとは程遠いどぎつい野心作だった。乱れ打ちされるイメージにハマるか否かが本作を愛せるかの分水嶺だろう。自分はそんなにノレなかったけど、こう>>続きを読む

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)

4.2

 画面手前から死体のようなものを引きずってくる印象的なファーストカット。主人公が家屋に火を放つと、すぐさま草原を去っていく主人公の背景に燃える小屋が見える魅力的なロングショットに接続される。彼が列車に>>続きを読む

THE BATMAN-ザ・バットマンー(2022年製作の映画)

4.0

 前評判通り画面内の黒の比率がかなり高かったので、これは家のテレビで見ると潰れてしまって苦しいだろうな。映画館で見てよかった。
 冒頭、夜空にバットマンの印を見つけると、ハロウィンの被り物をした犯罪者
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フォレスト・ガンプ/一期一会(1994年製作の映画)

4.0

 羽根と共に空中を彷徨うファーストショットは、BTTFのファーストショットと同じようにゼメキスの遊び心を感じるロングテイクであり、これが観客の視点を主人公の足元に導くことで物語が開始する。
  いじめ
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MEMORIA メモリア(2021年製作の映画)

3.8

 ファーストショット、薄暗い固定ショットを凝視し続ける観客を突如衝撃音が貫く。モノトーンに近い色調とゆっくりと動き出すカメラワークが紡ぎ出す場の強烈な重力が、アピチャッポンの影響元の一つであるタル・ベ>>続きを読む

牛首村(2022年製作の映画)

3.9

 導入部から良いホラー演出の連続で引き込んでくれる。どことなく嫌な印象を与える、バスの窓に反射した自分の顔がさりげなくあり得ない目線の動きを見せ、自動車の車内に設置されたカメラがフロントガラスの向こう>>続きを読む

ウエスト・サイド・ストーリー(2021年製作の映画)

4.0

 1961年版と同様、物語は俯瞰ショットによって開始するのだが、技術的な進歩によって自由を得たカメラは自在に動き、その終着点で地面が割れる。このショットは、同時に、ジェントリフィケーションがもたらす既>>続きを読む

ウエスト・サイド物語(1961年製作の映画)

3.9

 開幕から延々音楽だけを流している時間があり、インターミッションがあり、と今では失われた大作映画の贅沢な時間を映画館で定期的に摂取すること自体が良いイベントだなと思う。謎の黒い模様がマンハッタンの遠景>>続きを読む

ダウン・バイ・ロー(1986年製作の映画)

3.7

 音楽に合わせてトラッキング・ショットの断片の連鎖が挿入された後のオープニングは、開幕早々「裸のキッス」ばりの荒れ狂う女からスタート。部屋の荷物が散らばった夜の街路のロングショットが美しい。
 前作「
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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊(2021年製作の映画)

3.8

 ワンカットたりとも妥協を許さない一枚絵の連続によって情報量の洪水の中に観客を置き去りにし、丹精込めて作り上げた画を惜しげもなく一瞬で切り替え消化させる時間も与えない。レイアウトに重点を置いた奥行きの>>続きを読む

エルム街の悪夢(1984年製作の映画)

4.6

 開幕早々観客が放り込まれるホラー映画の空間の魅力。トンネルの向こう側から差し込むあり得ないほど強い光が出口を真っ白に塗り潰し、生贄の象徴のように羊が現れる。煙が吹き出し、火が配置されたボイラー室のゴ>>続きを読む

ブルジョワジーの秘かな愉しみ(1972年製作の映画)

3.8

 序盤のレストランのシーン、デルフィーヌ・セイリグ、ビュル・オジエ、ステファーヌ・オードランの三人が並んで座る絵面の高級感に嘆息していると、啜り泣く声が聞こえてくる。音に導かれたブルジョワジーたちは、>>続きを読む

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)

3.6

 IMDbの低スコアを見て面白くないんだろうなと思いつつも、それでもイーストウッドだし、どれが遺作になるかも分からないしということで公開初日に見てきた。まあ案の定面白くはないが、イーストウッドの新作を>>続きを読む

トウキョウソナタ(2008年製作の映画)

3.9

 タニタのような大企業の総務課長がリストラされて即座にハローワークの列に並ぶというのは、映画的な落下のスピードではあろうが、リアリティの欠如が気にならない訳ではない。基本的に黒沢清作品にリアリティなど>>続きを読む

ガートルード/ゲアトルーズ(1964年製作の映画)

3.6

ファーストシーン、ロングテイクの会話劇の中で、会話が別の男の存在という核心に及ぶ瞬間に切り返しを差し込み静かな衝撃を生み出す演出は「ミカエル」全編を通しての戦略の軽量バージョンであるし、長閑な屋外での>>続きを読む

奇跡(1954年製作の映画)

3.7

適宜差し込まれる、美しい草原を進む馬車のショットが清涼剤となる他は、狭苦しい室内の超ロングテイクでひたすら会話劇が繰り返され、パン、ズーム、トラッキングは洗練されているものの、人物の動きをフォローする>>続きを読む

天はすべて許し給う/天が許し給うすべて(1955年製作の映画)

3.7

「心のともしび」と同じく、ラッセル・メティの色鮮やかで清潔、端正な撮影は楽しめるのだが、自分はメロドラマにはあまり関心が無いのだなということを改めて実感してしまった。ダグラス・サークであっても「心のと>>続きを読む

ヘカテ デジタルリマスター版(1982年製作の映画)

3.8

主人公のバストショットがティルトダウンし、グラスの中にシャンパンが注がれると、イメージの類似により海へとオーバーラップされ、画面は消えない記憶の光景へと導かれる。お洒落な導入だ。
青い夜に包まれた屋内
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ベレジーナ(1999年製作の映画)

3.7

オープニング、ドアから入ってきた軍服姿の男とヒロインが切り返され、僅かに言葉を交わすといきなり銃声が鳴り響く。カマシはばっちり。この描写が、すぐに角度を変えて繰り返され、シュミットの迷宮に迷い込むよう>>続きを読む

DUNE/デューン 砂の惑星(2020年製作の映画)

3.6

序盤、人物紹介と固有名詞だらけのガチャガチャした説明が延々続く中で、しばしば雰囲気スローモーションが挿入され、とにかくデカイ画にハンス・ジマーの壮大な劇伴を重ねて盛り上げようとされればされるほど冷めて>>続きを読む

ルパン三世 カリオストロの城(1979年製作の映画)

3.9

冒頭のカーチェイスシーンは、スピルバーグが「映画史上最も完璧なカーチェイス」だと評したという噂があるようだが、確かに宮崎駿らしい自由で躍動感のある運動イメージが楽しい。垂直の崖を登っていく自動車など、>>続きを読む

ルパンは今も燃えているか?(2018年製作の映画)

3.6

タイムスリップを繰り返して過去の場面に現在のルパンが介入するという構成なので、有名なキャラクター以外にキャラクターを知らない非ルパンファンとしては、ファンが抱くであろう感慨は感じられなかった。まあそれ>>続きを読む

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2019年製作の映画)

4.0

ガンバレルから物語世界を俯瞰で覗くファーストショットが洒落ている。窓の外に突如現れる能面のようなホラー演出に、シリーズでまだやっていないことをやろうという意欲が見える。氷が割れ、水の中に落ちていくマド>>続きを読む

007 スペクター(2015年製作の映画)

4.0

アバンタイトルのファーストショット、メキシコシティで死者の日を祝う大量のエキストラを用いた力の入った超ロングテイクに、007はこういう飛び道具を放り込んでくれるのが嬉しいよなとテンションが上がる。エレ>>続きを読む

007 スカイフォール(2012年製作の映画)

5.0

ファーストショット、一瞬だけ鳴り響くジェームズ・ボンドのテーマに合わせて逆光の中でシルエットと化したボンドが現れる。その後の室内のアンバーの色調もそうだが、007映画であってもやっぱり撮影監督ロジャー>>続きを読む

007/慰めの報酬(2008年製作の映画)

3.8

アバンタイトルのカーチェイスシーンが異常に細かいカット割りとブレブレのカメラで構成されており、何をしているかよく分からない代物に仕上がっていたため嫌な予感からのスタート。以降のシーンはそこまででは無か>>続きを読む

007/カジノ・ロワイヤル(2006年製作の映画)

4.4

007シリーズ自体初鑑賞だったので、他作品と比べてどうなのかは不明だが、二時間半の尺を遅滞せず、かつ、詰め込み過ぎにもせず一気に見せる良質な娯楽映画だった。
アクションシーンに関しては、結局序盤の爆弾
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恐怖の足跡(1962年製作の映画)

3.8

開始早々、狭い橋の上に車が並ぶとあまりに呆気なく柵が壊れ、車は水中に吸い込まれていく。人命を飲み込んだ水面は平然として表情を変えず、流木に沿ってクレジットが斜めに表示される。この低予算短尺B級ホラー特>>続きを読む

呪いの家(1944年製作の映画)

3.7

オープニングの波がコマ落としになっていた時は、不気味な雰囲気を作り出すために波+コマ落ちってのは時折ある組み合わせなので普通に見ていたのだが、それ以後も延々コマ落ちだったので驚いた。最初はそういう映画>>続きを読む

アントニオ・ダス・モルテス(1969年製作の映画)

3.7

オープニング、逆再生のような妙な音声と銃声がミックスされる中、銃を携えた男が画面左側に歩いてフレームアウトしていく。銃声がうめき声に変わると、一人の男が代わりにフレームインしてくるが、彼は中々倒れずに>>続きを読む

タルテュッフ(1925年製作の映画)

3.7

オープニングの廊下を歩いてくる家政婦をローアングルで捉え、手前に靴を配置した面白い構図のショットは、同時に靴を蹴っ飛ばしていく彼女の本性を示唆する。
家から追い出された孫はカメラの方に歩み寄り、第四の
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殴られる彼奴(あいつ)(1924年製作の映画)

3.8

どうやらサウンド版だったようで、嘲笑の声など、ところどころに音声が入っていた。
開始早々、主人公の全てである妻及び研究成果を丸ごと失わせる。シェストレム、「霊魂の不滅」もそうだったけどかなり苛烈な人だ
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スージーの真心(1919年製作の映画)

3.6

化粧と華美な服装で身を飾り立てる女を悪し様に描き、それを「スージーの真心」と対比させる構造を見ていると、やはりグリフィスって保守的な人だなと思わされる。「嵐の孤児」も革命を取り扱っていながら共産主義や>>続きを読む

都会の女(1930年製作の映画)

3.7

都会と田舎の対比が強調される本作だが、「サンライズ」も“The Woman From the City”の誘惑に田舎の男がたぶらかされるというプロットだったし、ムルナウはこの構図が好きなんだろうな。>>続きを読む

銀河(1969年製作の映画)

3.6

冒頭、主人公二人の向かいから歩いてきた黒いマントの男は、一文無しには金をやらないが、僅かに金を持っている者には金を恵むなどと奇妙な物言いをし、目的地に到着したら娼婦に子供を産ませるよう告げる。カットが>>続きを読む

デッド・オブ・ナイト/夢の中の恐怖(1945年製作の映画)

3.9

病院の外に葬儀用の馬車が忽然と現れ、御者がじっと座っている不気味なビジュアルが素敵。御者の台詞「空席は一人分です」をバスの運転手が繰り返し、気後れして乗車しないことにしたバスが崖から落下していく。幼い>>続きを読む