片山幹生さんの映画レビュー・感想・評価

片山幹生

片山幹生

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バッカス・レディ(2016年製作の映画)

4.2

67才で街頭に立つ老人相手の娼婦、ソヨンの物語。
悲痛な老娼婦の生き様を淡々と提示するなかで、韓国の戦後史のなかで置き去りにされた人たちの悲痛な状況を浮彫にする。
海外養子、シングルマザー、米軍基地、
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リンダはチキンがたべたい!(2023年製作の映画)

4.4

いい意味でフランス的な洒脱さ、軽やかな諧謔と風刺を楽しむことのできるアニメーションだった。明るい色調の不透明水彩絵具でサッと描かれたような絵は、美術作品として面白い。その明るさと軽やかさのなかで、ニワ>>続きを読む

整形水(2020年製作の映画)

3.3

藤子不二雄Ⓐの黒いユーモア作品を想起させるようなホラー・ファンタジー。エスカレートしたルッキズムの行く末を描き出すグロテスクな悲喜劇。ルッキズム批判というよりは、この現実をシニカルに観察しているような>>続きを読む

マルモイ ことばあつめ(2018年製作の映画)

4.5

ユ・ヘジンのおっさん顔を見るだけで泣きそうになってしまう。
朝鮮語の使用が禁止された日本統治下の朝鮮で、民族性の重要な拠り所である「母語」を守るために、連帯し、弾圧に立ち向かう人たちがいた。実際にあっ
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金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキスト(2017年製作の映画)

4.2

これは日本が向き合なければならない問題だが、この映画は日本では作ることはできない。韓国だからこそ作ることができた。この映画では私たちがまともに語ることができない天皇制について痛烈な批判が行われている。>>続きを読む

WILL(2024年製作の映画)

4.2

不倫スキャンダル後、マスコミやSNS上で散々たたかれ、離婚し、三人の子供とも離ればなれとなった東出昌大が抱える孤独と葛藤をまっすぐ見据えた、作り事が感じられないドキュメンタリー映画だった。
山中で狩猟
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ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー(2023年製作の映画)

4.2

非正規底辺労働者の若い女性二人組の殺し屋のコメディ・アクション。長髪女性の殺し屋、高石あかりののヤサグレ演技、定型的だが実にさまになっている。うまい。殺し屋たちに依頼される殺しの理由や動機が徹底的にく>>続きを読む

AKAI(2022年製作の映画)

3.7

新型コロナのころに行った現在の赤井英和へのインタビュー映像を外枠に、かつて赤井が大阪西成のスターだったころ、《浪花のロッキー》と呼ばれていた時代の赤井の映像を再構成したものだった。私は赤井とほぼ同年代>>続きを読む

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日(2012年製作の映画)

4.3

11年ぶりに見た。
虎と海洋を漂流しながらサバイバルするスリリングで緊張感に満ちた場面や幻想的な海洋の風景に見ている最中は引き込まれるが、やはりあの結末にぐんと突き放されたような衝撃を覚える。冒頭で「
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市子(2023年製作の映画)

4.2

オリジナルは戯曲とのことだったが、舞台でどんな風に上演されたのか見てみたくなった。
プロポーズの直後に失踪した恋人の過去をたどる、という構造のよくあるドラマではあるのだけど、その過程で露わにされる悲惨
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秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)

4.1

森のなかで展開する静謐で優しいファンタジー映画だった。双子の女の子がかわいい。子供の頃持っていたけれど、その後成長とともにずっと喪失していた気持ちを取り戻すことを、夢想するかのような物語だった。最後の>>続きを読む

別れる決心(2022年製作の映画)

3.7

少々いびつで状況のなかで展開するロマンチックな物語であり、男女二人の屈折したかけひきのなかでの心理描写はいいのだけど、パク・チャヌク監督作品としては、こちらをぎょっとさせるようなえげつなさがないのが物>>続きを読む

バンリューの兄弟(2019年製作の映画)

4.0

フランスの大都市の外側に広がるバンリュー(郊外)の貧困と荒廃は、フランスの植民地主義とそれに起因する民族・宗教差別とも深く結びついている。パリの中央の華やかさから疎外され、警察など国家権力との緊張関係>>続きを読む

You Will Remember Me(英題)(2020年製作の映画)

4.7

大学を退職した歴史学者が認知症になる。
徐々に症状が悪化していく歴史学者を持て余した妻は夫を捨て別の男性と暮らし始める。恋人と暮らす40代の娘が父を引き取るが、彼女にとっても老いた父の介護は大きな負担
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福田村事件(2023年製作の映画)

4.5

見る前に予想していた以上に、心胆を寒からしめる内容だった。「事件」の発生の前に延々と、この事件を生み出したじっとりと粘つくような時代の雰囲気が描き出される。ただ集団の同調圧力のおぞましさは、過去のある>>続きを読む

TAR/ター(2022年製作の映画)

4.3

組織、集団内の関係性のなかで、おそらくそれまで抑えられていた黒い衝動が解放され、それがどんどんエスカレートしていく例は、身近にいくつもあるし、私自身にもそうした可能性はある。多くの人間はどす黒い欲望を>>続きを読む

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)

5.0

このレビューはネタバレを含みます

やはり、マクドナー。どうやったらこんな展開の脚本を思いつくことができるのか?!
アイルランドの架空の島を舞台に、退屈な生に絶望しながら、諦念のなかに生きる人の姿を、容赦ない冷徹なユーモアとともに描く傑
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トリとロキタ(2022年製作の映画)

4.9

無音のエンドロールを見ながら、作品のメッセージの重さを受け止める。
ダルデンヌ兄弟の作品は、社会的セーフティネットからこぼれ落ちた人たちの存在を可視化する。アフリカからの移民の少女と少年は、堅い疑似姉
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生きる LIVING(2022年製作の映画)

3.5

オリジナルの黒澤明版にもそれほど心動かされなかったのだが、オリヴァー・ハーマナス監督、カズオ・イシグロ脚本、ビル・ナイ主演のこの版にもあまり感動しなかった。「生きる」ことの証が、あのささやかな、ありふ>>続きを読む

なんくるないさぁ劇場版 生きてるかぎり死なないさぁ(2021年製作の映画)

4.0

主演の仲田幸子は1933年生まれで90歳。彼女は沖縄芝居の「喜劇の女王」と呼ばれ,沖縄では知らない人がいない偉大な存在なのだそうだ(私はこの映画を見て初めて知ったのだが)。仲田幸子が本人役でこの映画に>>続きを読む

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)

4.0

緊迫感に満ちたスリリングな試合の展開に、リョータを中心に、超個性的な各プレイヤーの内面の描写や過去の回想のエピソードが挿入される。試合の場面の身体の表現やカメラワークが作り出す迫力とリアリティは圧巻。>>続きを読む

少女は卒業しない(2023年製作の映画)

3.7

卒業式前日と当日の4人の女子高生のはかなく、せつない恋を美しく描く青春《少女》映画。女子高生青春映画の傑作、つみきみほが出演した中原俊監督『桜の園』を思い出す。各高校生の世界、内面を丁寧に描き出す秀作>>続きを読む

エルヴィス(2022年製作の映画)

3.6

彼をアメリカ国内に縛りつけたマネージャーの視点からエルビスの生涯を描く。エルビスというと白人の音楽という気がするが、彼の音楽のルーツは黒人の大衆音楽・文化に由来する。ロック歌手という存在のエロチックな>>続きを読む

PLAN 75(2022年製作の映画)

3.7

父母だけだけでなく、自分ももしかするとすでに人生の晩年に入っているのかもしれない。75歳まであと20年。万人を待ち受ける老いの現実に向き合わされる。陰鬱な気分になる映画だった。

ティファニーで朝食を(1961年製作の映画)

3.8

この数カ月、なぜか『ティファニーで朝食を』のテーマ、《ムーンリバー》が頭のなかでループしていた。音域が狭くて歌いやすい名曲だ。歌詞も大好きだ。主人公のホリーの心情を重ね合わせて、その歌詞が描く風景を思>>続きを読む

走れ!走れ走れメロス(2022年製作の映画)

4.9

全校生徒数が70名の島根の県立高校分校の演劇同好会の記録。高校演劇、地域市民演劇の指導者として知られる亀尾佳宏先生が同校演劇同好会の顧問。演劇という活動自体に内在する教育的効用や新型コロナ禍が演劇・教>>続きを読む

プリンセスと魔法のキス(2009年製作の映画)

4.8

いわゆるプリンセスものだが、主人公は黒人の少女。そのヒロインと「恋人」は、本編のほとんどの時間、かえるの姿で行動する。彼らの冒険につきそう音楽好きのワニのルイス、そして一番星に恋をする蛍のルイという脇>>続きを読む

RRR(2022年製作の映画)

4.3

超人的な身体能力を持つ二人のインド人の戦士の暑苦しい友情の絆が、インドを植民地支配し、横暴の限りを尽くすイギリス帝国主義に立ち向かう壮大なスケールのアクション映画。全編、ずっとBGMが流れ、ドラマを盛>>続きを読む

裸のムラ(2022年製作の映画)

4.0

このレビューはネタバレを含みます

5月に石川県小松市の曳山子供歌舞伎と大衆演劇劇場、金沢おぐら座での森本商店街一座を見に行ったのだが、この両方に石川県知事の馳浩が来て、挨拶をしていた。小松の子供歌舞伎はともかく、金沢おぐら座の商店街素>>続きを読む

重力の光 : 祈りの記録篇(2022年製作の映画)

3.3

北九州市のとあるプロテスタント教会に集う元ヤクザやホームレスなど社会的落伍者へのインタビューと彼らが聖書劇を作り、上演する様子からなるドキュメンタリー。聖書劇はこの映画のために、出演者たちが作り、上演>>続きを読む

天使の涙(1995年製作の映画)

4.2

ドンパチのあるアクション映画であり、荒唐無稽な喜劇映画でもある。その定型的な娯楽性の枠組みのなかに、叙情に満ちた映像詩が散りばめられている。スクリーンに映し出された夜と雨の香港の風景がいかに夢幻的で魅>>続きを読む

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