ナガエ

マタインディオス、聖なる村のナガエのレビュー・感想・評価

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映画としては、ちょっとなんともよく分からなかった。そもそも「ドキュメンタリー」だと思って観に行って、最後の最後まで「ドキュメンタリー映画なんじゃないか」と思っていた(まあ、冒頭のシーンから、明らかにドキュメンタリーじゃない感はあったのだけど、そういう演出かもなと思ったり)。

冒頭からとにかく、「状況説明」がほぼないので、何が映し出されているのか全然理解できなかった。どうやら「サンティアゴ」という守護天使を祀る(?)風習がある村らしく、花束を用意したり歌の練習をしたりと色々やっている。映画の最後の方で、「偶像破壊」の場面があり、そこだけはなんとなく興味深かった。ストーリー全体は全然理解できなかったが、それまでの「サンティアゴを祀り上げている村」とい印象が、最後にガラリと変わって、よく分からないながらも「一筋縄ではいかないややこしさが内包されている」という現実が切り取られているのだということがなんとなく理解できた。

個人的には、映画終了後のトークイベントの内容の方が興味深かったかもしれない。

まずこの作品はペルーの映画で(僕はそれさえよく分かって無くて観た)、しかもペルーは今、「シネ・レヒオナル(地域映画)」が商業映画に食い込むぐらいの勃興を見せているのだそうだ。

「シネ・レヒオナル」というのは、母語(特に少数言語)で撮影される、リマ以外の各地域を拠点に制作される映画だそうだ。フィルムからデジタルへと撮影環境が変わったことで、商業映画ではない形で撮影されるこのような「シネ・レヒオナル」がかなり生まれてきているようで、そもそも商業映画の層が厚くなかったペルーの中で、一定以上の存在感を示すようになっているのだそうだ。

トークイベントの中では、僕も最近観た「息子の面影」という映画にも言及されていた。こちらはペルーではなくメキシコの映画だが、これも「シネ・レヒオナル」のように商業映画とは全然違うところから生まれた映画で、それが世界中で絶賛され商業映画の中に食い込んできている。そしてペルーではまさに、そのような映画がかなり力を持つようになってきているそうなのだ。

ちなみに、もう少し「息子の面影」の話をすると、この映画の撮影スタッフの8割は女性で、チーフは全員女性だそうだ。理由は、メキシコは日本以上に映画の撮影現場における性暴力・女性蔑視が酷いようで、そのような背景を元に、酷い扱いを受けてきた女性スタッフたちが集まって、女性だけで映画を作ろうとなったのだそうだ。

そして、このトークイベントで説明されたことで、なんとなくだが「マタインディオス、聖なる村」の設定もなんとなく理解できた。

ペルーのこの地域は、「キリスト教を押し付けられた歴史」があるのだそうだ。イタリア人のコロンブスにインド大陸発見のための資金を提供したのがスペインの女王だったそうだが、この女王が「カトリック以外の宗教は認めない」というかなりヤバい奴だったようで、「異教徒は皆殺しだ」というスタンスでイベリア半島(現在のスペインがある辺り)を支配するようになったという。

そしてその流れのまま、「インド」だと思われていたアメリカ大陸にヨーロッパ人が入り込んでいったから、無理やりキリスト教を押し付けられる形で改宗させられた、という歴史があるらしい。

しかしこの映画においては、結局、「こんなに祈ってるのに、何も変わらないじゃないか」という絶望が立ち現れ、「自分たちが今まで信じてきたものが間違いだったんだ」と気づく、という様が描かれているのだそうだ。

なるほど、映画を観ているだけではさっぱり理解できなかった。

ちなみにこの映画、ペルー制作の映画なのに、ペルーでの公開は7月の予定だそうで、何故か日本が世界初の公開になるそうだ。この映画は、僕としてはあまり面白いとは感じられなかったが、こういうチャレンジングな映画を、世界的な評価を待たず(受賞歴は様々にあるっぽいが)公開するシアター・イメージフォーラムは素敵だと思う。頑張ってほしい。
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