Tully

デリシュ!のTullyのネタバレレビュー・内容・結末

デリシュ!(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

原題の『Delicieux』、英題の『Delicious』は、ともに 「おいしい」 「気持ちが良い」 という意味。物語の舞台は1789年のフランスのパリ郊外、そこでシャンフォール公爵の宮廷料理人として雇われている「 ピエール・マンスロン」 は、頼まれていないスイーツを出した挙句、それに 「じゃがいも」 を使っていたことが判明して解雇されてしまう。地下にある植物を忌み嫌う風習があった貴族たちは、「自分達を豚とみなした」 などと囃し立て、雇い主のシャンフォールはピエールに 「詫びを入れろ」 と迫ったのだが、何一つ悪いことをしていないと感じているピエールは謝罪を固辞し、宮廷を辞めることになったのである。実家に戻ったピエールは、彼を父のように慕う 「バンジャマン」 と、ピエールの家に居候していた友人 「ジェイコブ」 とともに暮らし始めた。家は強盗が入った後のように荒らされていて、ジェイコブは飢饉が起きて壊滅的な状況になっていると訴える物語はそんな彼らの元に 「ルイーズ」 という訳あり女が訪ねてくるところから動き出す。彼女はどこかの侯爵の邸宅で給仕をしていたというものの、つぶさに彼女を観察していたピエールは、「その歩き方は貴族か娼婦のものだ」 と言い、彼女が嘘をついていることを見破ったルイーズはどうしても弟子入りを懇願し、肉体労働も辞さぬ覚悟でタダ働きをする。そして、外食店をしようと言い出し、その準備資金を彼に託すのであった映画の背景はフランス革命前夜ということで、フランス革命が起きた1795年から遡ること6年前の1789年から紡がれる。王政に反発する勢力が決起し、貴族や高級聖職者の立場が崩れ、「ブルジョワジー」 が権力を握る過渡期にあったフランス。フランス旧体制の崩壊の中で、経済活動を始めるピエールたちの様子が描かれていて、映画の結末から3年後に 「バスティーユ陥落」 が起こっている。1790年にはこれまでの身分制度を廃止し、1971年には徴税請負人も廃止され、領土権も部分廃止に至っている。彼らはそんな時代の中で、貴族階級の抑圧を受けてきた側で、ルイーズの父はシャンフォールとインド会社を設立して裏切られた過去を持っていたちなみに前身にあたる東インド会社は1769年に解散になっていて、映画内は再建されたインド会社が登場している。再建は1785年で清算開始は1793年なので、ルイーズの父は再建時にシャンフォールに尽力した人物だったという設定になるのだと思う。映画では夫の敵を討ちたいルイーズがピエールを巻き添えにすることを恐れて諦めるのだが、ピエールはどうしてもルイーズの敵討ちをさせたいと考えていたそこで考案したのが商業地域から人を呼び込んで、公爵を集客の目玉にするという作戦だった。無論、因縁のデリシュを真っ先に出すという最大限の嫌がらせも加味しつつ、彼らが今後恐ることになる平民に取り囲ませるのだが、このお灸が効きすぎて笑ってしまう。フランスの情勢が貴族に対するヘイトで溢れている状況なので、柔和な笑顔から一転して憎しみと怒りの表情に変わる 「ラストシークエンス」 は圧巻だったといえる。捨て台詞を吐いて去る小悪党に対して、ルイーズが出るとこ出たら暴露してやると脅しをかけるのも最高で、その後 「客を放置してラブラブになるところまでがテンプレート」 になっていて微笑ましい次第であった。いずれにせよ、「公爵<司祭」 とか、結局のところ信用すらされずに孤独である公爵などのエクスキューズを描きながらも、奈落まで突き落とすところが面白い。図らずも愛人の 「サン=ジュネ公爵夫人」 と一緒にやり込められるというのはシニカルすぎてどう反応して良いのか悩む。修道女の母も最高で、映画館でドッと笑いが起きていたのが印象的だった。
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