マグルの血

BLUE GIANTのマグルの血のレビュー・感想・評価

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
4.5
世界一のジャズプレーヤーを目指す青年の成長を描いた物語。

私も映画館で観れなかった一人です。
失敗したなー。

音楽映画に関しては拙い文章力でも熱く語りたくなってしまう。この映画に関しては特に。
そもそも原作途中までは追えていて、思ったより長引いてしまって途中からフェードアウトしてしまったクチです。つまらないからではないです。ワンピースと同じような理由。

原作は日本のマンガ史に残る重要な作品のひとつです。聞こえないはずの音が聞こえ、読む人の心を揺さぶる。「BECK」も近いものがありますが、本作の方がより「人間」にフォーカスしている印象。間口が広い気がします。どっちも好きです。

さて、物語は至ってシンプル。世界一のジャズプレイヤーになりたい宮本大が、大きな志しをもってあてもなく上京するところからスタート。必然とも呼べる偶然の雪祈との出会い。そして素人の同郷の友人玉田を誘いバンドを組みジャズで一旗あげようと奮闘するサクセスストーリー。

三人の生きざまが交錯し、信じられないエネルギーを生み出す迫力の演奏シーンが見所。アニメーションは賛否両論ですが、私は全然好きでした。抽象的な表現や過去の回想カットを交えたエモーショナルな映像。確かに作画ちょっと怪しいと思うところもあったんですけど、それを乗り越えた熱量を感じたのでよしです。


で、個人的に何が良かったのか考察してみました。

一つは原作があり得ないほどいい。
近年希に見る超名作です。演奏シーンの迫力はもちろんのこと、人物の描写や言葉の選び方が素晴らしい。
主人公は宮本大という好青年ですが、彼が巻き込む周囲の人もちゃんと主人公になるのです。しっかり作りこまれたキャラクターによる効果もありますが、作者の演出によりしっかりとフォーカスされスポットライトが当たる。
所謂「モブ」にも人生があり、その人それぞれが中心となる生活がある。その息づかいがしっかり伝わるまさに人間讃歌的な作品。これだけ良作であればよっぽど切り取り方を間違えない限り物語は◎です。
省略された地元での活動もとんでもなくエモーショナルなストーリーなんですが、演出でうまく盛り込み嫌なスピード感ではありませんでした。

そしてこの映画は音楽が素晴らしい。劇伴が最高。
担当するは世界的なジャズピアニスト上原ひろみ。私もアルバム3枚ほど愛聴しております。
卓越した演奏技術と楽曲センス、そしてエモーショナルなパフォーマンスで評判を呼び、日本においてジャズミュージックを一般レベルに呼び込むことに成功した数少ない名プレーヤーの一人です。

個人的に大好きな曲の動画貼っときます。

https://youtu.be/z5gWB8qM8Dw?si=ySMjyEm6UgNCysj8

テクニックも最高なんですけど、表現力も素晴らしい。ピアノ曲で最も好きな曲も貼ります。

https://youtu.be/RXY0gtkBCMs?si=t3j6z0YxoT1gpyam

正直ジャズやピアノに関してかじる程度の知識しかありません。正直その道に精通している方は「もっと他にいいのあるよ」と教えてくれるかもしれませんが、少なくとも、10年以上前に素人同然の私がアルバムを購入し愛聴するプレーヤーなので自信をもってオススメできます。


ところで、そもそもジャズという音楽はブルースなどのブラックミュージックをルーツとし、大衆音楽的側面を持つジャンルのひとつ。人種差別や自由を求めるポリティカルなスタンスから発展したものであり、金持ちがウイスキーを嗜みながらステーキを食べるときに聴くような音楽がスタートではないはずです。

いつからか、ジャズを聴く層はどんどん狭まり、日本国内では瀕死の状態に。クラシックと区別がつかない人もひょっとしたらいるかもしれませんね。

実際非常に難解で、初心者には取っつきにくい音楽。音階もリズムも難しいし、ほぼアドリブで構成された表現というのも恐ろしい。

その究極に突き詰められた音楽に挑む3人のバランスが最高です。
初期衝動に従順なテナーサックス。ハイレベル、才能溢れるもいつしか音楽を真摯にたのしめなかったピアノ。完全な素人のドラム。バンドという形態の1+1を2にも3にもするマジックがしっかりパッケージングされているし、音楽に挑む、楽しむ素晴らしさが伝わってくるのです。

長々と駄文を書き連ねてしまいました。
音楽の素晴らしさを教えてくれる名作のひとつだと思います。映画館でリバイバル上映することがあれば絶対観に行きたいです。

2024年 23本目
マグルの血

マグルの血