ノーラン作品として腹を括ると
非常に見易い構造になっていたし、
オッペンハイマー視点を正とする
カラーとモノクロの使い分けも親切。
キーワードを起点に二つの時間軸が連動するので
各シークエンスごとに
何がキーワードになっているかも比較的明瞭。
人物の名前など最低限の予習は必要だが
逆に言えばそれだけでスルスルと飲み込める編集の技巧に舌を巻く。
当時のアメリカにおける原爆への価値観を見せられ、
これが反戦反核に繋がるのであれば
非常に有意義な踏み込んだ表現だったと思うけれど
当時を知らない日本以外の人々にとって
受け取られるべきラディカルさが伝わりきったのかは疑問視せざるを得ない。
オッペンハイマーが幻に見る
皮膚が剥がれる少女の描写は
結局あの程度の凄惨さだと思っているのではないか、
と落胆してしまうレベルだったし
何なら本作白眉のクライマックスであったが故に
最も印象的な場面になっていたはずだ。
これが製作側の見通しの甘さではなく
オッペンハイマー自身の見通しの甘さ表現なのであれば
多少理解できるが
そうなると今度は、
それは世界の観客にとっては理解の及ばない表現であり、
明瞭さへの好評を撤回しなければならなくなる。
それでもやはり
3時間の膨大な会話劇を見せるストーリーの力と
要所で画を引き締める映像の力は強い…!