ウサミ

オッペンハイマーのウサミのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
オモロかったです。
どうせノーラン映画なんだから、オッペンハイマーの人間描写なんかせずに、ポリティカルサスペンスとして全力投球すればいいのに。しかもあなた英国人なんだから!

やや投げやりな感想になってしまうのは、個人的にクリストファノーランの作品は、壮大な脚本をエンタメとして見せるのは上手いが、人間の機微やドラマを描くのは苦手、と思っているためです。
巧みに重なる要素を紡ぎ上げ、観客の一歩上のレイヤーであっと驚かせ没入させるのは凄まじいので、どうせならその方向で良かったのでは?

平和な時代にのうのうと生きた日本人なので原子爆弾で亡くなった方々、そして戦争を経験した方々のような感覚は無いため偉そうなことは言えないのですが、いちおう日本人としては、殺戮兵器の恐怖をもう少し描いて欲しかったです。
原子爆弾で消え去った日本人の姿はオッペンハイマーの目に映ったものではないのでしょうから、直接描くのではなく、彼の心理描写から想起するトラウマとして描くのは素晴らしいです。しかし、やはり恐怖が作品に無いため、それを無視して愛人の死とかどうでも良すぎるわけです。いや、極東であなたの作ったものでもっとやばいこと起きてますよ。と。
殺戮兵器を作ることに、それでも向き合った彼の心理描写と、そこに至るまでの経緯をもっと深く描いて欲しかったので、そこは肩透かしでした。

しかし、よく考えてみたらクリストファーノーランは英国人ですから、このような描き方ができるのはある意味彼だけ。
やはり、どうしても脚本が盛り上がってくる。人々の陰謀が絡み合い、複数のレイヤーが重なって作品が繋がってくると、おもしろいと思ってしまう。
たとえ、オッペンハイマーはこんなに苦しんでたんだよ!を描いたとて。その贖罪が何の意味があるのだろう?
敗北が見えながら降伏しなかった日本、むしろ命を守るためとかこつける米国。
水面下で、いや、それがやがて表立ち、暴力の選択をとった国。

「落とされた人が恨むのは、作ったものではない、落とした私だ」
「罪悪感を王冠のように被ってる」
「罰せられることで赦されるとでも?」
いや、最高ですよね。セリフは私の意訳ですが。
本作を興味深くさせ、戦争というものの本質を描き、オッペンハイマーの虚飾を暴く台詞たち。
偉そうなこと言ったとて。罪悪感を表に出して悪びれたとて。「でもそれって「あなた」はどうなの?」という疑問は、本作のように扱っている問題がこうだと、常につきまとってしまう。

もしかしたら、これはクリストファーノーランの恐ろしいほどのバランス感覚なのかもと思いました。

爆弾使ったよ、あとはお前らがどうするか。
それは本作もそうなのかも。

本作をどう捉えるか?
水面下で恐怖と恐怖は常に睨み合い、膠着している。我々はいつまで他人事でいられるのでしょうか。
ウサミ

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