ウサミ

PERFECT DAYSのウサミのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3
映画館でめちゃくちゃ泣いてしまいました。
作品の中に存在する数多の余白から、僕は孤独を感じ取ってしまったためです。
主人公が日常を慈しみ、ささやかな幸福を零さず掴み取ろうとする姿が、そうでもしないと抱えきれないような寂しさがあるように思えたのです。

本作は、海外の監督にしか撮れないと思います。
このタイトルも、そうです。日本人監督がこのタイトルを付けるのは、皮肉に聞こえるかもしれないです。

本作の主人公は、トイレの清掃員です。
目覚まし時計は使わず、空気の変化と、窓の外から聞こえる箒の音で目を覚まします。歯を磨き、髭を整え、植物に水をやり、外の空気を吸って、自販機で100円のカフェオレを飲みます。お気に入りのカセットを聴きながら、朝日と共に高速道路を走り、丁寧にトイレを磨き上げます。昼休みは神社でサンドイッチを食べ、木漏れ日をフィルムカメラに納めます。仕事が終わると銭湯に入り、居酒屋で酎ハイを飲み、夜は眠くなるまで本を読みます。
この淡々とした暮らしが繰り返し繰り返し映されます。
作品の空気感は恐ろしいほど心地良く、些細な変化と幸福を慈しむ彼の姿は、とてもとても美しかったです。
時に、トイレ清掃員という職業が受ける冷ややかな向かい風にも、彼の日常を犯す変化にも、彼はそれを受け流し、そこから美しさを見出し、これまた慈しむのです。

このルーティンに近い日々の中に、ほんの少しフックを残します。
彼は過去に一体何が?彼が抱えるものは一体?しかし、本作はそれに対する問いは提示しません。
様々な要因が今の彼を作り、彼はそんな人生を大切に生きています。それを俯瞰で眺めることが、たまらなく楽しく、没入できました。

いつしか、彼は淡々とした日々を単調に過ごしているのではなく、時に発生する不協和音を、むしろ「変化する日々」を敏感に感じ取り、愛していると感じるようになりました。

ヴィムヴェンダース監督は、雑多な世界の中に潜むごく小さな甘美を見事に切り取り、複雑な世界が絡まって一つの社会が形成される薄氷の美しさを、見事に表現していました。

だからこそ、本作は海外の監督にしか撮れないと思うのです。

本作を、日本人が素直にイノセントに作ることができるでしょうか?
我々は、それをまっすぐ受け止められるでしょうか?
主人公の平山が、日々を慈しむのは防衛本能によるものだと考えるのはあまりに婉曲的でしょうか。
本作は、日々の美しさを見事に描いていると思います。しかし、本作が、日本人の前に現れたその瞬間、失われた日本の美を嘆いている作品に変貌してしまうと感じるのは、考え過ぎでしょうか、僕が疲れているだけでしょうか…

ここまでリアルな作品なのに、それでも人ごとに置いてしまう自分が寂しく思えたと同時に、主人公の複雑な感情を汲み取ろうとすればするほど、それが遠く離れた場所に消えていく感覚があり、いつしか泣いてしまいました。
ウサミ

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