このレビューはネタバレを含みます
「わたしには母性がないの」という強烈な一言が胸に残る。きっとそんなことはないはずだよ。
バケーションのムービーでありながら、2人の娘を残して家を出た過去の後ろめたさがフラッシュバックして、育児を終え、避暑地でも胸の内に重くのしかかる。
幼な子の呼ぶ声が部屋をこだまして、真綿で締め付けるように息苦しくなる。家族で談笑するかけがえのない時間もありながら、育児の精神的な辛さを味わう2時間。
自分が大切にしていた人形を娘がぞんざいに扱ったことに腹を立てて、壊してしまったことのトラウマ。人形を盗んだことも、言うことを聞かない娘と、ビーチで騒ぎを始めた家族を重ねて、彼女なりのささやかな抵抗なんだろう。
反抗することができなかった娘たちに対して、身勝手な行いを後悔していた訳だけど、ニーナから針を刺される制裁を与えられたことによって、彼女はようやく痛みを感じることが出来たのだと思う。
それでも子どもがいてよかったと感じさせるラストシーン。
「母性がないの」という言葉は、若かりし頃にキャリアを目指す彼女が、足枷となってしまう育児から男性のように逃れたことを、自分自身で責め続けていたことだから許すことが出来たのだと思う。
流れる赤い血は血縁を表し、切ろうとしても切ることが出来なかった存在であることを受け入れる。
ジェンダー映画と言えるが、キャリアと育児の天秤のように、ジェンダー問題とだけで一言では表せない多面的で複雑な問題を自覚する。あなたはあなたとして生きてと強く言えない難しさで、コミニュティや社会が、支える合うことが出来ないものだろうか。
エンターテイメントとして扱いにくいが、多くの女性が経験しただろう苦しみにスポットライトを与えた、マギー・ギレンホールのとても素晴らしい試みだったけど、正月に観る映画ではなかったな。
若さのエネルギッシュさと曖昧さを演じたジェシー・バックレイが素晴らしい。