あーさん

ある男のあーさんのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

人生を考える旅シリーズ 第3弾

これは、難しい。。
客観的にこの作品を観ることができる人って、きっと一度も自分の存在を疑ったことのない人なんじゃないかな。

大まかなあらすじは知っていたものの、なるべく決定的な情報は入れずに観た。なので、レビューもほとんどスルーして。
良かった。これは、事前に情報入れちゃダメ。

"先入観"
身近なところで言うと、私は関西から関東に引っ越した時に(自分の意思ではなく夫の転勤で)、感じたかな。何この違和感⁈ 出身地で、こんなにも自分を十把一絡げにされると思わなかったので、驚いたし、戸惑ったし、複雑な気持ちになった。
こんな小さなことでも、多数派になれないと人は疎外感を味わう。
皆、外用の顔を作って本当の自分を押し殺して生きていく。

ましてや。

どこかで、開き直ってしまえたら。
今なら、そう思える。仲間や理解者がいれば。。

だけど、窪田正孝の背負ってるものが余りにも大き過ぎて、そんなことは絶対言えなくなる。
物凄い演技だった。空虚で、どこにも焦点が合ってなくて、自分の居場所なんてこの世のどこにもないって顔。誰も、彼を救うことなんてできないと思ってしまう。
でも、血塗られた忌まわしい出自を捨てられたら。。(後で、親子は一人二役と知る💦窪田正孝のプライベートが心配になった…)

束の間の幸せが、彼に笑顔を与えた。家族の温もり、平和でほのぼのした食卓。あのシーンは、後から思うとめちゃくちゃ切ない。。

ゆっくりと、静かに彼を受け入れて、癒していくシングルマザーの里枝(安藤サクラ)。いつも思うけど、彼女はミューズのようだ。
ジェットコースターのような人生のアップダウンを、飲み込んでまた耕して。すごいな。。

あの涙の破壊力。

後半から、幸薄い二人に比べると成功者として描かれていたように思っていた弁護士役の妻夫木聡が、だんだん比率を大きくしてくる。

あれ?

ある男って、誰の事?

あ、これが、先入観。。

在日3世という事を常に苦にしながらも、人権派弁護士という地位を手に入れ、裕福な妻(真木よう子)とその両親と上手くやっている(体)なのだが、、

だんだんクローズアップされていく彼の心の叫び。違う、違う、そうじゃない。
何かを飲み込むたびに、皮肉に対して笑顔を返すたびに、大きくなっていく彼の心の中のモヤモヤ。

少し納得できないことがあったので、Filmarksのネタバレ解説を読んでみる。

なるほど。("母性"の時も思ったけれど、こちらがわかりやすい!ただ、読むのは必ず鑑賞後に…)

映画では触れられていなかった背景が原作から見えてくると、感じ方もまた変わってくるな、と。(谷口大祐の家庭環境→詳しく知ってもちょっと弱さは感じた、時折挟み込まれるマグリットの"不許複製"の意味…)

他にも、
里枝が次男を亡くして離婚した経緯。

在日韓国人に対するヘイトスピーチの映像。

色んなことが絡まり合って、色んなことを考え過ぎて、今作を観たその日はなかなか寝付けなかった。

何が正解かはわからない。
人の耐性って、個人差があるからどうするべき、とかはないのだと思う。

私の周りにも、生きづらさを抱えている人がいる。夫婦が壊れてしまうと、子ども達にそれが影響していくのが切ない。
"お母さんを悲しませたあいつ(父親)に、自分が似ていくのが嫌だ"と言った友人の長男のことを、ふと思い出した。彼は今、どうしているだろうか。。
その心の傷から"絶対結婚しない"と言っている子もいたりする。

でも、、どこかで誰か一人でも自分のことをわかってくれる人がいるのなら、前を向いて強く生きてほしいと願う。(戸籍を変えて全てを捨てる事は、自分にとって大切なものも削ぎ落としてしまう可能性がある…)
別姓にしなければ結婚で名前が変わる女性に比べて、男性は人生をリセットしにくい、と改めて感じた。

何度も苗字が変わり複雑な思いを抱える里枝の長男・悠人の力強い言葉、失踪した谷口(仲野太賀)を探すのを諦めない元恋人(清野菜名)、ボクシング・ジムの会長(でんでん)とトレーナー(カトウシンスケ)の愛のある言葉、、今作の中に出てきた出自をひっくるめて受け止めてくれようとした人々に、希望の光を見たような気がする。

今作の良い所は、細かいディテールをしっかり描いている所だと思う。馴れ初め、林業の仕事、少しずつかけがえのない家族になっていくエピソード、、



そんな所がとても好きだっただけに、最後のオチ?のような終わり方に、あれ?となってしまった。世にも奇妙な物語?的な。。(あと、真木よう子役のテンプレな安っぽい使い方⁈)

平野啓一郎の原作もそうなのだろうか?
気持ちに余裕がある時に、またアプローチしてみたい。

観た人によって、印象が変わる作品だと思った。



MEMO
マグリットの生い立ちに、今作が少し重なるものがあった。
あーさん

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