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ある男のtkykのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.1
淡々とした静かな作品だったが、あらゆる面で間違いが無く、最後まで惹き込まれる作品だった。

社会派ミステリーとして一本の筋が通っているのでそれぞれのキャラクターがきちんと立っていた。
その中でも妻夫木聡は群を抜いていた。物語の中盤から現れるとあっという間に本作を支配していた。彼が在日三世である事が何気ない会話の中で示されるが、その何気ない会話に強烈な差別意識が潜んでおり、それを笑顔で聞き流す妻夫木に彼がいかに日常的に疎外感を感じているかが感じられる。彼が受け続けてきた疎外感は人道的な弁護士であろうとする姿に繋がっており、彼の人物像を厚いものにしていた。
その他のキャストも本作をしっかりと支えていた。言うまでもなく窪田正孝と安藤さくらは序盤からその人としか思えない演技で非常に魅力的だったし、眞島秀和演じる谷口の兄もとても嫌な感じが良かった。本当の谷口がどんな人物かはあまり示されないが、兄の言動だけでいかに谷口が生きづらさを感じていたかが滲み出ていた。
さらに印象的だったのは安藤さくらと窪田正孝の息子を演じた坂元愛登である。非常に難しい役柄だと思うが、グッと抑えた表情の中に父親に対する葛藤や愛が内包されていた。
とにかく全てのキャストが作品をしっかりと固めていた。

演出や編集に関してもとても的確だった。どの場面も画面の明暗がくっきりとしているので場面ごとの雰囲気を効果的に醸成していた。特に暗い場面は全くわざとらしさがないが不穏な感じが出ており、そこから部分的に光が当たる事で明暗のコントラストが表れ、印象的な画になっていた。
カメラワークに関してもフィックスでしっかりと人を見せる場面が多いが、所々で非常にゆっくりとズームインする場面があった。そこではじっくりと会話を聞かせながら徐々に1人にフォーカスさせており、そのシームレスな感じが見事だった。
編集に関しては中盤以降は城戸視線で話が進むので現在と過去が入り組む形になっていた。特にボクシングジムで谷口の過去を聞く場面は谷口の過去と現在が交互に展開されるのでややもすると集中が途切れかねないが絶妙なタイミングでスイッチングする事で非常に重要な谷口の過去が分かりやすく提示されていた。

非常に静かでありながらそれぞれの人物が際立ち、見応えがあった。
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