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海炭市叙景のyoko45のレビュー・感想・評価

海炭市叙景(2010年製作の映画)
4.6
 まさに叙景、賛辞の言葉が見つかりません…兄と妹、老婆と猫、夫と妻と子、父と息子、長くて鈍い痛み、短く鋭い痛み。  いつから歯車が噛み合わなくなったのか。一見行く先は望みがないように見えます。でもこの不安や焦り苛立ちはどこか懐かしさすら感じてしまうほど自然。
 函館の山から見おろす街の夜景は幻想的、そして夜明け、雪で白く塗られた街は美しいように見えて灰色に荒廃したようにも見え、明暗が入り交じる人生のよう。
 初日の出、妹の帆波(谷村美月)と兄の颯太(竹原ピストル)。妹は兄を見つめる。兄の表情はなかなか映されませんが妹の表情で感じることができる、この場面が秀逸。兄妹の幼少の姿が現れると涙で画面がボヤけてしまいました。小林薫と加瀬亮も素晴らしく痛々しいです。
 望みは捨てない、生きる意味を考える、この叙景、胸の奥まで染み込みジワジワと広がってきます。

(メモ)
懐かしい谷地頭

……………………………………………
(物語 HPより)
第一話
 その冬、海炭市では造船所が一部閉鎖され、大規模なリストラが行われた。町中がその行方に注目し、揺れ動く組合員たち。颯太(竹原ピストル)は、ストの甲斐もむなしく職を失ってしまう。大みそかの夜、妹の帆波(谷村美月)と2人きりで寂しく年越しそばを食べていると、年が明けた。そして、2人はなけなしの小銭を集め、初日の出を見るために山に登ることを思い立つ。しかし、2人そろって帰りのロープウェイに乗れるだけのお金はなく、兄は歩いて山を下りることに…。

第二話
 70歳になるトキ(中里あき)は、産業道路沿いに建つ古い家に住んでいた。地域開発のため、周辺の家は次々と引っ越していき、いまや残っているのはトキの家1軒だけであった。市役所に勤めるまこと(山中崇)が立退きを説得しに来るも、トキは断固として拒み続けた。「来年もここにいる。そん次の年も。そん次の次の年もだ。」そんなある日、飼い猫のグレが姿を消してしまった…。

第三話
 比嘉隆三(小林薫)は、プラネタリウムで働く49歳。仕事から帰ると、妻の春代(南果歩)は派手な格好に厚化粧をし、お店の仕事へと出かけて行った。ひとり寂しく夕飯を食べる隆三。中学生になったひとり息子はすっかり口をきかないようになった。ある日、春代が仕事に行ったまま一晩帰ってこなかった。腹を立てた隆三は春代を問いただすが、それは2人の距離を遠ざけるだけであった。そしてある晩、ついに隆三は春代に仕事を辞めさせようと、春代が働く店へと車を走らせる…。

第四話
 父親から代々続くガス屋を継いだ晴夫(加瀬亮)は、新しく始めた事業がうまくいかず、日々苛立ちをつのらせていた。家庭では、再婚した元同級生の勝子(東野智美)が、晴夫の不倫に気づき、その嫉妬心から、晴夫の連れ子であるひとり息子のアキラ(小山燿)を虐待していた。ある日の仕事中、いつも通りの手順で、重たいLPガスボンベを車から降ろそうとした晴夫は、うっかり手を滑らせ足の指の上に落としてしまう。膿んだ足を引きずり帰ったその夜、アキラの顔には殴られたようなアザがあった…。

第五話
 長年、路面電車の運転手を務める達一郎(西堀滋樹)は、路面電車の前を通り過ぎる息子の博(三浦誠己)を見つけた。博は東京で働いており、仕事のため地元に帰ってきていたのだが、父親と会おうとせずにいた。年が明けたある日の昼下がり、お墓参りではち合わせた達一郎と博。2人は帰りのバスに揺られ、何年か振りの短い会話を交わす…。
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